パワハラ問題を考える-その1

最終更新日: 2018年04月04日

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執筆: 弁護士 村岡つばさ

「伊調馨選手がコーチからパワーハラスメントを受けていた」-真偽のほどは分かりませんが、ここ最近で衝撃を受けたニュースの一つです。
本日は、企業様からのご相談も多いパワハラ問題について、今一度考えてみたいと思います。

1 パワハラって何?

単語としては良く耳にするけど、いまいちピンと来ない方もいるのではないでしょうか。
厚生労働省は、平成24年3月に出した提言において、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」を、パワーハラスメントと定義しています。そして、厚生労働省は、この定義に基づき、典型的なパワーハラスメントの類型として、下記の6類型を挙げています。

  • 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
  • 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
  • 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

※パワハラというと、上司→部下への行為をイメージされる方が多いと思いますが、実は、同僚同士や、部下から上司に対する行為についても、「パワハラ」に当たる可能性があります。

2 適正な指導とパワハラの境界線

実務上、非常に問題になることが多いのが、適正な業務上の指導と、パワハラとの線引きの問題です。
適正な指導かパワハラかは、①客観的に見て、その行為が業務上の指導の目的で行われたものであるか、②指導の方法が適正か、という観点で判断されるのが一般的です。
裁判例を見てみると、②については、特に下記の5点が注意すべきポイントと考えます。

⑴ 暴力を伴う指導

直接的な暴力(殴る、蹴る、胸倉を掴む等。)を伴う指導が、「適正な指導」に当たらないことは明らかです。
また、直接の暴力でなくとも、机をたたく、物を投げる、壁を蹴る、書類を破くといった威圧的な行為についても、労働者に過度の心理的ストレスを与える行為であるとして、違法な行為(≒パワハラ)と認定される傾向にあります。

⑵ 人格を否定する発言

「馬鹿野郎」「大学を出ても何もならない」「給与泥棒」「お荷物」など、対象となる労働者の人格を否定するような発言は、適正な指導の範囲を超え、違法な行為(≒パワハラ)と認定される傾向にあります。

⑶ 他の従業員の面前での叱責

勿論、発言の内容、時間等の個別事情にはよりますが、他の従業員の面前での叱責は、労働者の人格を傷つける行為として、違法な行為(≒パワハラ)と認定される傾向にあります。また、「能力不足であり、会社にとって不必要な人間である」旨のメールを職場内の全員に送った行為が、名誉棄損に当たると認定した裁判例もあります。

⑷ 長時間労働+指導

指導自体はそれほど行き過ぎたものではなくとも、背景に長時間労働等がある場合には、会社の一連の行為が違法とされることがあります。
長時間労働・不慣れな仕事(何の配慮もなく係長に昇格させた)が背景にあり、既に心身に不調が生じていた部下に対し、上司が約3時間にわたる叱責(「こんなこともできない部下はいらない」等)を行ったところ、その翌日に部下が自殺してしまった事案において、上司の叱責行為を含む一連の会社の行為が違法とされ、会社の責任が認められた事案もあり、注意が必要です。

⑸ 新人に対する指導

裁判例の中には、「社会経験や就労経験が不十分」な新入社員に対する指導は、配慮して行う必要がある旨言及しているものがあります。新入社員に対する指導は、会社にとって厳しく判断される可能性があるので、注意が必要です。

3 おわりに

次回は、パワーハラスメントを含め、社内でハラスメントトラブルが発生した場合に生じ得る法的責任と、その対応策について記事を書きたいと思います。

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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 村岡つばさ