パワハラ問題を考える-その2

最終更新日: 2018年08月02日

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執筆: 弁護士 村岡つばさ

前回のブログ記事から、4か月程空いてしまいました…。
4か月間ずっとパワハラ問題を考えていたわけではないのですが、今回は、パワハラ問題を考える-その2として、社内でハラスメントトラブルが発生した場合に生じ得る法的責任と、その対応策について記事を書きたいと思います。

1 法的責任について

⑴ 誰が責任を負うか?

まず、実際にハラスメント行為を行った当事者(従業員)が法的責任を負うことは、言うまでもありません。
また、従業員だけでなく、その従業員を雇用している会社も、極めて高い確率で責任を負う(使用者責任、安全配慮義務違反(不法行為・債務不履行責任))こととなります。

具体的にどのような根拠に基づいて賠償責任を負うのかという点は、紙面の都合上、ここでは割愛させていただきますが、覚えておいていただきたいのは、どれほど注意をしていたとしても、一度ハラスメントトラブルが発生してしまうと、会社が責任を免れるのは極めて難しいという点です。

⑵ どのような責任(賠償)を負うか?

当事者・会社が被害者に対して責任を負うとして、いったいどのような損害を賠償しなければいけないか?という点も問題になります。
まず、ハラスメントを受けた被害者が、心身に不調を来してしまい、治療を受けた場合には、その治療費を賠償する必要があります。休職を余儀なくされた場合(うつ病にかかってしまった等)には、その休業損害も支払う必要があります。仮に、労働者がうつ病にかかり、後遺障害が残ってしまった場合や、労働者が自殺してしまった場合等は、高額の逸失利益(仕事が一部・全部できなくなってしまったことの補償)を支払う可能性もあります。

慰謝料については、その行為の悪質性や、治療の期間、結果の重大性等の事情を考慮して決定されるため、ケースバイケースの判断となります。

なお、ハラスメントが原因で労働者が精神障害を発病してしまうケースでは、労災と認定されることがあります。この場合、治療費、休業損害・逸失利益の一部については労災保険から支給がなされます。ただし、労災保険は慰謝料については何らカバーされないのに加え、上述の通り、休業損害・逸失利益についても一部しかカバーされません。労災により支給されない部分については、会社が支払う必要があり、極めて高額な賠償金額となることがあります。

2 対応策について

上で見た通り、一度ハラスメントの問題が発生してしまうと、会社が責任を免れるのは極めて困難です。そこで、①そもそもハラスメント問題が発生しないような職場環境を作るべく、会社の方針を明確化(従業員への周知・啓発・教育)することが重要です。

また、ハラスメントの問題は、放置すると被害がどんどん拡大していき、取り返しのつかない事態になりかねない、という性質があります。そこで、会社としては、②問題が早期に発見できるような体制の整備(相談窓口の設置等)を行い、③仮に問題が発生した場合には、迅速かつ適切な対応(ヒアリング、配置転換、懲戒処分等)を行う必要があります。

ただし、裁判例の中には、ハラスメントの事実があったものと決めつけ、加害者とされる人物に、弁明の機会を何ら与えずになされた懲戒免職処分は無効である、と判断したものもあります(大阪高裁平成22年8月26日判決等)。

そこで、③については、前提として、十分なヒアリングを行う必要があります。ヒアリングの際は、被害者の話だけでなく、加害者とされる者からも話を聞き、果たしてハラスメントの事実が認定できるのか、という点を、まずは考える必要があります。その上で、ハラスメントの事実が認定できた場合であっても、その行為に見合った処分を行う必要があります。ここを間違えてしまうと、懲戒処分の有効性を争われるなど、加害者とされる従業員との紛争にも発展してしまう可能性があります。

3 おわりに

以上、2回にわたりハラスメントの問題について記事を書かせていただきました。

ハラスメントの問題は、初動対応が極めて重要である上、加害従業員への処分等、慎重な判断を要する部分も多々ございます。お困りの際は、早い段階で弁護士に相談することをオススメします。


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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 村岡つばさ