民法改正~危険負担の原則が変更された~

最終更新日: 2020年06月09日

カテゴリ:

執筆: 弁護士 辻悠祐

たとえば、太郎さん(売主)が自己所有の建物を次郎さん(買主)に売却したとします。売買契約成立後、太郎さんが次郎さんに建物を引き渡す前に落雷によって建物が焼失してしまった場合、次郎さんは太郎さんに売買代金を支払う必要があるのでしょうか。

落雷というどうしようもない理由で建物は焼失しており、当事者双方に責任はありません。感覚的には、次郎さんは、建物の引渡しを受けられなくなったわけなので、代金支払いの必要性がないように思えます。

しかし、これまでの民法の原則では、下記のとおり、このようなケースでは次郎さんは太郎さんに建物の売買代金を支払わないといけないというのが原則でした。このような原則を債権者主義といいます(建物の引渡請求権の視点で考えると、買主である次郎さんが債権者)。

改正前の民法
(債権者の危険負担)
第五百三十四条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

実際は、契約書で債権者主義のルールが修正されるケースが多くありましたが、契約書がないケースではこのような債権者主義が適用される可能性がありました。

しかし、このように、商品はもらえないのに代金を支払わないといけないというようなリスクを債権者にのみ負わせるのは酷であるという理由から、改正民法では下記のように、双方の責任なく商品が滅失した場合代金も支払義務はなくなるという債務者主義に変更されました。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 辻悠祐