夢のリニアモーターカーと入札談合

最終更新日: 2018年01月10日

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執筆: 弁護士 辻悠祐

1、夢のようなリニアモーターカー

リニアモーターカーとは、時速約500キロ、東京を出発して約1時間10分で大阪に到着するという夢のような乗り物です。東海道新幹線の最高速度は285kmらしいので、それと比べてもかなり早いことが分かりますね。

リニアの総工費は、9兆円を超えるもので、企業にとってはビックビジネスのチャンスといえそうですね。

そのようなリニアの工事の入札について、入札談合の疑惑が出ました。入札談合という言葉はよく聞くと思いますが、入札談合とはそもそも何かを考えていきたいと思います。

2、入札談合とは

(1)入札談合とは

公共事業などの競争入札で、競争するはずの業者同士が、あらかじめ話し合って協定を結んだ結果、入札で価格競争が行われず、安い価格で入札されるような状況を考えるのが一般的だと思います。いわば出来レースのような状況ですね。では、入札談合を規制している法律は何で、入札談合の要件とは何かを考えていきます。

(1)入札談合とは

公共事業などの競争入札で、競争するはずの業者同士が、あらかじめ話し合って協定を結んだ結果、入札で価格競争が行われず、安い価格で入札されるような状況を考えるのが一般的だと思います。いわば出来レースのような状況ですね。では、入札談合を規制している法律は何で、入札談合の要件とは何かを考えていきます。

(2)規制している条文

入札談合は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(略して、独禁法といいます。)によって規制されています。
   独禁法3条には、「事業者は・・・不当な取引制限をしてはならない」として規制を行い、独禁法2条6項に不当な取引制限の定義が記されています。入札談合は、不当な取引制限の一つの類型なので、独禁法2条6項、3条が入札談合に関する条文といえます。

(3)不当な取引制限について

独禁法2条6項は「事業者が・・・他の事業者と共同して・・・相互にその事業活動を拘束し・・・公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」が不当な取引制限であると規定されています。入札談合で、特に問題となるのは、「他の事業者と共同して」いたのか否かという点です。このブログでは、ここに絞って説明を行います。
「共同して」なされたといえるためには、複数の事業者間で、同一の行動を取ることを認識ないし予測し、それに歩調を合わせる意思があることが必要です。必ずしも、明示的な合意は必要ではなく、黙示の意思連絡があれば足りるとされています。入札談合のケースでは、明示的な合意を直接立証する証拠がないことが多く、黙示の意思連絡があるのかが争点となることが多いです。

(4)入札談合の構造

入札談合は、①受注予定者の決め方や参加者への入札物件の割り振りに関する基本合意がなされた後(例:リニアの工事の受注予定者は話合いで決めていこう)、②個々の入札物件ごとに受注者を決定する個別調整が行われる(例:この部分のリニアの工事はX社に任せよう)という二段階構造があります。「共同して」なされたか否かは、基本合意の有無によって判断するというのが一般的な考え方であり、個別調整行為の存在をどれだけ証明しようと基本合意が立証できなければ、「共同して」の要件を満たさず、入札談合とはいえません。

(5)基本合意の立証

明示の合意を直接証明する証拠(合意した文書や電子メールの存在)があれば、立証は比較的に容易になりますが、なかなか合意を証明する証拠が見つからないことも多いです。そのような場合は、基本合意を立証するために、その存在を推認させる事実を積み上げて、基本合意を立証していくことになります。具体的には、個別調整における受注希望の表明、他の受注希望者の存否の確認があったのか、受注予定者による他の入札参加者に対する連絡の有無、受注予定者以外の者による落札への協力といった事実が基本合意の存在を推認させる事実となります。
   今回、入札談合の疑いが出ている大林組は、大手ゼネコン4社による受注調整を認めており、特捜部は基本合意の立証のために証拠を収集している最中だと思われます。

3、最後に

今回の事件では、JR東海が2015年以降発注したリニア関連工事22件のうち、7割くにあたる15件を4社がほぼ均等に受注していたそうです。難工事で工事費が1千億~数千億円規模と巨額になる品川駅や名古屋駅、南アルプストンネルについても、大手ゼネコン4社がほぼ独占していたらしく、意思の連絡が認められると、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」の要件も充足するでしょう。

このような大手ゼネコンの入札談合事件は過去にも複数あります。特に、リニアのようなビッグプロジェクトの場合、企業が価格競争をせずに利益を得たいという動機が大きくなるのでしょう。しかし、入札談合が発覚した場合の企業のダメージは大きく、今回談合が疑われている企業は、企業イメージの低下などは避けられないでしょう。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 辻悠祐