民法改正~要物契約から諾成契約へ~
1. 諾成契約と要物契約
民法の契約には、諾成契約と要物契約があります。
諾成契約とは、当事者の申し込みと承諾という意思表示の合致で契約が有効に成立する契約類型です。たとえば、売買契約が典型です。
要物契約とは、意思表示の合致のほかに、目的物の引渡しが契約を有効に成立させるための要件となっている契約類型です。たとえば、消費貸借契約が典型でした。
つまり、消費貸借契約では、約束だけでは契約は有効には成立せずに、実際に金銭や物を交付することで契約が有効に成立するということでした。

2. 要物契約から諾成契約への変更
改正前の民法では、要物契約の類型がたくさんありました。
しかし、2020年の民法改正で、要物契約とされていた契約類型のうちの多数が、諾成契約に変更されました。
今回、要物契約から諾成契約に変更された(明確化された)契約は次のとおりです。
債務(借金など)の返済の代わりに、所有している不動産や車などを引き渡して弁済に代える契約です。
② 書面でする消費貸借契約(民法587条の2)
お金を借りて、後でそれと同額を返すといった契約(住宅ローンや借入金など)です。
③ 使用貸借契約(民法593条)
物を無償(無料)で貸し借りする契約です。
④ 寄託契約(民法657条)
荷物を預けたり、預かったりする契約(倉庫への保管委託など)です。
3. 民法改正により諾成契約となった契約の条文
2020年4月1日から施行された、諾成契約となった改正後民法の条文は次のとおりです。
第四百八十二条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
(書面でする消費貸借等)
第五百八十七条の二 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。
3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。
4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
(使用貸借)
第五百九十三条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
(寄託)
第六百五十七条 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
4. 消費貸借契約に注意
消費貸借契約は、原則として要物契約です。しかし、書面等でする消費貸借契約は諾成契約となりました。
実際には、消費貸借契約は書面でなされることが多いため、多くの消費貸借契約が諾成契約になりました。
5. 民法改正後も要物契約とされる契約
民法改正後も要物契約とされる契約は、次のとおりです。
書面を作成せずに、お金を借りて、後でそれと同額を返すといった契約です。
② 手付契約(民法557条)
不動産売買などの主たる契約を結ぶ際に、買主から売主へ「手付金」を支払う合意(従たる契約)です
③ 質権設定契約(民法344条)
時計や貴金属などの物を担保に入れてお金を借りる際などに結ぶ、担保物権の設定契約です。
6. まとめ
①代物弁済契約、②書面でする消費貸借契約、③使用貸借契約、④寄託契約は、2020年の民法改正で要物契約から諾成契約に変更されました。
また、①書面等によらない消費貸借契約、②手付契約、③質権設定契約は、2020年の民法改正後も要物契約とされる契約です。
執筆: 弁護士 辻悠祐