民法改正~意思表示の効力発生時期の統一~

最終更新日: 2020年04月27日

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執筆: 弁護士 辻悠祐

令和2年4月1日より、民法の一部が改正されました。
今回から、民法改正部分のうち、重要な部分をとりあげて説明をしていきたいと思います。
初回は、意思表示の効力発生時期に関する改正を説明したいと思います。

意思表示の効力発生時期

改正前は、「隔地者に対する意思表示」については、通知が相手方に到達したときから効力が生じる(これを到達主義といいます)とされており、承諾については、承諾の通知を発したときに効力が生じる(これを発信主義といいます)とされていました。
しかし、通信や配送手段が発達した現代社会では、申し込みと承諾の場合で効力の発生時期を分けることの合理性はなく、隔地者(離れた場所にいる人)とそうでない人に分ける必要性もないことから、隔地者とそうでない人の区別をなくし、かつ、申し込みと承諾の場合のルールの違い(到達主義と発信主義)もなくしました。
それによって、下記のとおり、シンプルな条文になりました。

(意思表示の効力発生時期等)
第九十七条  意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3  意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力の喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

改正前の条文では、到達したときに意思表示の効力が発生する、反対解釈をすれば、到達しないと意思表示の効力は発生しないような条文の構造になっていました。

しかし、相手がわざと郵便物を受け取らないなど意思表示の到達を妨げている場合でも意思表示の効力が発生しないとすれば、郵便物を受け取れば不利だと分かる人はみんな郵便物を受け取らなくなってしまいます。そこで、判例は、受取人が、不在配達通知書の記載その他の事情から、内容を十分に推知することができて、受取人に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、あまり、労力・困難を伴うことなく郵便物を受領することができたなどの事情がある場合は、受取人が郵便物を受領できたのと同じ状態だと判断して、到達したものと認めていました。97条第2項は、このような判例を汲む条文といえます。どのような場合に、「正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたとき」に該当するのかは、過去の判例が参考になりそうですね!

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 辻悠祐