「ながら運転」の厳罰化について

最終更新日: 2019年12月03日

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執筆: 弁護士 粟津正博

近年交通事故による、痛ましい事件が後を絶ちません。
その一つとして、運転中のスマートフォン操作が問題となっており、警視庁の発表によれば、「平成30年中の携帯電話使用等に係る交通事故件数は、2,790件で過去5年間で約1.4倍に増加」「携帯電話使用等の場合には、使用なしと比較して死亡事故率が約2.1倍」だったそうです。
今回12月1日施行の道路交通法改正により、このような「ながら運転」違反に関する罰則が強化されたことが報道され、耳にすることも多いと思います。

1、従来の法規制

従来も「ながら運転」については、行政罰刑事罰の規定は存在していました。例えば、「ながら運転」を行った場合の刑事罰として、交通の危険を生じさせた場合は3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金が、そうでない場合(単純使用)であっても5万円以下の罰金が科せられることになっていました。

今回の法改正により、前者については1年以下の懲役または30万円以下の罰金、後者については6ヵ月以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられることになり、大幅に厳罰化されたといえます。

2、「ながら運転」とは

では、どのような行為がそもそも「ながら運転」にあたるのでしょうか。
例えば、スマートフォンをカーナビがわりに利用している人も多いと思います。改正された法律の下でもスマートフォンの使用が全く禁止されているわけではありません。

少し読みにくいですが、該当する道路交通法の条文は以下のようになっています。

第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
五の五 (省略)自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(省略)に表示された画像を注視しないこと。

画像表示装置とは、液晶等により画像を表示するための装置一般を意味しており、カーナビ、テレビのほか、携帯電話、スマートフォンのディスプレイ画面もこれにあたると解されています。

問題になるのはどこまでが「注視」に該当するかです。「注視」とは、画像を見続ける行為をいうと解されており、例えばカーナビ等を一瞥して現在地を把握することは「注視」にあたらないとされてきました。(ですので、カーナビの通常の利用自体が法違反になることはありませんでした。)これは、スマートフォンをカーナビがわりに利用する場合でも異ならないと考えられます。

一方で、各種の研究報告や警視庁の発表によれば2秒以上表示された画面を見続けると、その間に前方の歩行者が横断したり、停止車両に気づかず追突する危険があるとされています。よって、2秒以上スマートフォンを見る場合には、道路交通法違反となる可能性が高いといえます。このような場合には、安全な位置に停止して、改めて機器の操作をする必要があるでしょう。ただし、法令上明確な定義があるわけではないので、実際の道路交通状況や表示されていた画面の内容、運転者の健康状態等によって、個別具体的な判断がなされる可能性があります。

また、今回の法改正では、スマートフォンについてのながら運転が話題になっていますが、その他の映像機器を注視した場合についても罰則が強化されたものです。特に、テレビ・ビデオ画面などは本来的な用法として一瞥するものではなく、注視するものですから使用行為自体が同法違反にあたるものとして処せられる可能性があり注意が必要です。

3、おわりに

以上、今回は「ながら運転」について解説させていただきました。
今回の法改正により、少しでも「ながら運転」に対するドライバーの意識が向上し、交通事故被害が減ることを願っています。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 粟津正博