管理費滞納と強制執行

最終更新日: 2017年12月22日

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執筆: 弁護士 佐藤寿康

管理費回収のためだけですと、区分所有建物に対して強制執行できないことがあります。

弁護士の佐藤寿康です。
皆様には御自身で考えて行動する前に早期にご相談くださいとおすすめしていますが、私がそのことを痛切に思い知ることとなったケースをご紹介します。このような相談を受けたことがあります(実際の事案はもっと複雑ですが、一般化してお書きします。)。

  1. 管理費を払わないマンション所有者がいる。その滞納額は数百万円にも達する。
  2. その滞納管理費について、既に勝訴判決を取得した。
  3. 勝訴判決に基づく強制執行をして滞納管理費の回収をしたい。相手方所有のマンション(区分所有建物)を差し押さえれば、マンションからこの所有者を追い出すことができて一石二鳥である。

私は、相手方にはこのマンションしか財産がなく、マンションの評価額及び登記記録を確認したうえ、管理費の回収は難しいことだけでなく、相手方所有のマンションに対する強制執行を申し立ててもすぐに取り消されてしまうこととなることが見込まれるため、強制執行もできないという趣旨をお答えせざるを得ませんでした。

一般の債権に基づいて強制執行をしようというとき、まず判決などの裁判所の書類(以下、「判決等」といいます。)を取得し、次に強制執行を申し立てて相手の財産を差し押さえるという手順を経る必要があります。

一方、マンション管理費は、法律上、一般の債権よりも優先的に取り扱われています。先取特権というものです。先取特権があるため、管理組合は、実は、判決等を取得しなくても、相手のマンションに対する強制執行を申し立てることができます。したがいまして、上記事例の管理組合は、相手方のマンションを差し押さえるために判決を取得する必要はありませんでした。
ただし、先取特権が及ぶ範囲は限られています。たとえば相手の金融機関口座や賃貸しているときの家賃を差し押さえたいというときには、一般の債権の原則どおり、まず判決等を取得しなければなりません。

以上のとおりで、滞納管理費に基づく強制執行は、判決等を取得していなくてもできます。もちろん、判決等を取得していてはできないということはありませんので、上記事例の管理組合は、相手方所有のマンションに対して強制執行の申立てをすることが可能です。

しかし、上記事例では、強制執行の申立てをしても競売まで至るとは見込めませんでした。競売にまで至らないという見通しの理由は、強制執行をしても、管理費の回収が一切できないと見込まれたからです。
マンション管理費は優先的に取り扱われているとお書きしましたが、抵当権があるときは抵当権の方が優先します。さらに、不動産の強制執行には手続費用がかかりますが、これも管理費に優先します。
相手方のマンションを売却し、その代金は強制執行の手続費用、抵当権者が取得します。余りがあればマンション管理費の支払に宛てられますが、余りがなければ、マンション管理費には回らず、管理組合は1円も取得できません。強制執行を申し立てた人が1円も取得できない見込みであると裁判所が判断したとき、裁判所は強制執行手続を取り消してしまいます。無剰余取消しといいます。申し立てた者が回収できる金額がゼロであれば、その強制執行手続を進行させる意味がないと法律は考えています。

上記事例の相談者の方は、いや、意味がないことはない、相手方はずっとこのマンションを所有し続けるし、その間ずっと管理費の滞納が増えていくことが見込まれる、それは困るとおっしゃいます。

管理費滞納をする所有者を管理組合から排除したいというとき、管理費についての判決等を取得するのではなく、別の判決を取得する必要があります。建物の区分所有等に関する法律59条に基づく形式競売を許可する判決です。これは、管理費の回収を目的とするものではなく、管理費滞納を「著しい共同生活上の障害」に当たるものとして、相手方のマンションを競売することを判決で許可するよう求めるものです。
この判決を取得すれば、無剰余取消しの制度は適用されません。必ず競売に至ります。ただしこの場合、この競売手続によっては滞納管理費の回収は望めないことを見込まければなりません(新所有者が滞納管理費支払義務を承継します。)。

以上のとおり、上記事例では、管理組合は最初から形式競売請求訴訟も併せて提起しておくべきでした。管理組合が御自身で考えた方法である管理費についての判決等の取得は、相手方を排除したいという管理組合の御意向を実現するためには不十分な方策でした。もっと早くご相談なさっていれば、滞納管理費の増加はより抑えられたはずです。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 佐藤寿康