ずるいことがなされたとき、裁判所はどう扱う?

最終更新日: 2020年10月02日

カテゴリ:

執筆: 弁護士 佐藤寿康

1. 民事の裁判所の手続き

民事の裁判所は、訴訟や調停などの紛争案件だけ取り扱っているわけではありません。差押、破産、民事再生など、それ以外の手続も取り扱っています。

こうした手続は、じっくりと時間をかけて権利の有無を争う訴訟とは異なり、迅速に手続きを進めるために、裁判所が「決定」という形式でスピーディーに判断を下し、処理していくことが多いです。

大半のケースは問題なく進みますが、中には、簡易な審理手続であることを利用し、ずるいことをしようという人が現れます。

裁判所がずるいことに対してどう対処したのか、具体的な事例を見ていきましょう。

民事裁判

2. 小規模個人再生手続とずるいこと

小規模個人再生手続

小規模個人再生手続は、このままでは破産するかもしれないという人が利用する手続です。

反対する債権者が「頭数の半数以上」、または「債権額の過半数(2分の1を超える額)」のいずれにも達しなければ、再生計画案のとおり可決されます。

その後は、再生計画案のとおりに減額等された金額を支払えばよいということになります。

たとえば、債権者がA社1社で、債務額が300万円の事案で考えてみます。再生計画案にA社が反対すれば、再生計画案は不認可となります。小規模個人再生手続による再生を試みたものの、うまくいかなかったということになります。

では、このケースで、他に債権者B社(債務額200万円)とC社(債務額200万円)が存在した(合計3社、総額700万円)ときはどうでしょうか。

再生計画案にA社(300万円)だけが反対したとしても、B社とC社が反対しなければ、反対した債権者は1社(3社中1社で半数未満)となり、金額も300万円(総額700万円の2分の1以下)となります。そのため、法律上の要件をクリアし、再生計画案が可決されることになります。

ずるいこと

では、「本当は存在しない債権者B」が存在すると申立書に記載し、再生計画案を提出した場合どうなるでしょうか?

A社は反対しましたが、B社とC社は反対しなかったので、再生計画案は認可されました。この認可決定に対し、A社は不服の申立て(即時抗告)をしました。

裁判所の判断

最高裁判所は、再生債務者として債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることを指摘し、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いがあるため、この点を改めて審理する必要があるとの判断を示しました。

審理の結果、信義則に違反したと評価されれば、認可決定は取り消されます。(本事例は最高裁判所平成29年12月19日決定を基にした事例です。)

コメント

「本当は存在しない債権者B」を記載するというずるいことをしたのですから、小規模個人再生手続によるメリットを受けることを許さないという価値判断が背景にあると思われます。

3. 不動産競売手続とずるいこと

不動産競売手続

不動産競売手続は次のような流れで進みます。

① 競売の申立てがあった不動産について、裁判所が評価手続を行う。
② 売却代金の目安を決めて入札手続を実施する。
③ 入札手続において最高額を記入した人が落札する(買い受ける)。
④ 売却できた後は、配当手続を行う。

ずるいこと

Yさんは、Xさんに対し、ある不動産競売手続において「入札書にこれくらいの金額を書こうと思う。」と入札予定価格を開示していました。

Xさんは、これを上回る価格を入札書に記載して提出しましたが、実際には、YさんはあらかじめXさんに開示した入札予定金額よりも高い金額を記載していました。

結果として、Yさんが最高額を記載した入札者になりました。

裁判所は、Yさんを買受人とする売却許可決定を出しました。この売却許可決定に対してXさんが不服の申立て(執行抗告)をしました。

裁判所の判断

最高裁判所は、Xさんの不服の申立てを認めず、Yさんを買受人として認めました。(本事例は最高裁判所令和2年9月2日決定を基にした事例です。)

コメント

Xさんは、Yさんから入札予定金額の開示を受けていなければ、もっと高い金額で入札していたかもしれません。

YさんがXさんに低い金額を書くように誘導したともいえ、Yさんはずるいといえそうです。そのため、Yさんを買受人とする売却許可決定は覆されるべきとも考えられます。

しかし、入札というのは、入札予定者同士で価格を教え合うことを想定していません。そのため、Yさんから開示を受けて入札価格を決めたXさんもまたずるいといえます。

最高裁判所が売却許可決定を取り消さなかったのは、不服の申立てをしたXさんにもずるい面があったことに加え、売却許可決定を取り消すともう一度入札手続をやり直さなければならず、債権者らにも迷惑が及ぶことも考慮したことによるのかもしれません。

4. まとめ:正々堂々と適正な手続きを

裁判所は、ずるいことをした人には手続による利益を得させないということを基本にしています。一方、その他の関係者の利害も考慮して結論を出しています。

いずれにしても「ずるいこと」はせずに、正々堂々と裁判所が関与する手続きを行いたいものです。

執筆: 弁護士 佐藤寿康