どこからどこまでが暴行なのか?暴行の範囲
最近の大きなニュースと言えば、日馬富士が貴乃岩に暴行を加えた事件が毎日のようにニュースで流れていました。あの事件では、日馬富士が貴乃岩に対して暴行を加えたことについて争いはありませんでした。拳で相手の顔面を殴りつけたような場合、暴行したことは明らかですが、部屋の中で相手に対して刀を振り回した場合や無言電話を多数かけることで、相手を不安に陥れたような場合は、暴行したといえるのでしょうか?
実は、「暴行」という用語は、様々な意味があって、暴行という用語が使われる場面によってその意味が異なります。たとえば、強盗罪であれば、相手が反抗することが難しい程度の暴行が求められますし、公務執行妨害罪の場合は、警察のパトカーに石を投げつけて警察を威圧すれば、たとえその石が当たらなくても、暴行になります。
では、暴行罪における「暴行」とは、どのような意味なのでしょうか。
暴行罪における暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使と定義されています。これだと正直何言っているのかよく分からないですよね(笑)。有形力の行使とは、物理的な攻撃を加えた場合を意味すると考えてよいでしょう。
典型例としては、殴る、蹴る、引っ張るなどの行為があげられます。無言電話を多数かけて不安に陥れるような行為は、物理的な攻撃を加えたとはいえず、暴行したとはいえません。ただし、無言電話を多数かけて相手をノイローゼにさせたような場合は、傷害罪の成立の可能性があります。
部屋の中で相手に対して刀を振り回し、相手に刀が当たらなかった場合、身体接触がなくても暴行罪が成立するのでしょうか。
この点について、一般的には、物理的な攻撃を行使しているものとして、暴行罪の成立を認めます。たしかに、暴行の定義は、「有形力の行使」であり、物理的な接触までは求められていません。相手の身体に向けて刀を振り回しているような場合であれば、刀による物理的な危険性が身体に向けられており、身体に対する有形力の行使といえるため、暴行したといえます。ただし、相手の身体に向けて有形力を行使しているのかは、具体的な判断が必要で、たとえば、狭い部屋で刀の刃があたりそうな距離で刀を振り回す行為は「暴行」といえますが、広い部屋で十分距離がある状況で刀を振り回したとしても、身体に向けて有形力を行使したとは判断されにくく、「暴行」と評価されないでしょう。
以上のような暴行の意味を踏まえて、日馬富士の問題を検討すると、仮に日馬富士がビール瓶で殴打しようと思ったが、ビール瓶を振り上げた際に、ビール瓶が滑り落ちたので、暴行する気が失せて、貴乃岩に殴る、蹴るなどの直接的な暴行を加えなかったとしても、ビール瓶を振り上げてそれで殴ろうとしている状況が人の身体に対する有形力の行使といえ、ビール瓶が身体に当たらなくても、暴行罪が成立しうるでしょう。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。
執筆: 弁護士 辻悠祐