インドア派弁護士は宇宙旅行の夢を見るか?

最終更新日: 2022年07月26日

カテゴリ:

執筆: 弁護士 辻佐和子

夏は宇宙に思いを馳せたくなる季節ですね。せっかくなので宇宙に関するいくつかの法律等にも思いを馳せてみましょう。

宇宙

①宇宙条約

正式名称は、「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」という長い名前です。それぞれの国による宇宙空間の領有を禁止するなど、宇宙空間の探査・利用を平和的に進めることを目的としています。国連での採択が1966年、日本における発効は1967年と、早くから存在しています。

この条約が採択された背景には米ソの冷戦と宇宙開発競争がありました。「平和」を打ち出して過当競争を抑える必要があったのですね。

②月協定

正式名称は「月その他の天体における国家活動を律する協定」。月などの天体を探査する際の基本原則を定めた条約です。1984年に効力発生しました。実はこの条約、ほとんど機能していません。当事国は18国のみで、主な宇宙開発国は1国も加入していない(当然、アメリカやロシア、日本も加入していない)という何ともいじらしい協定です。

③宇宙活動法

人工衛星等を打ち上げるときには国の許可が必要なこと、万が一の場合に備えて打ち上げ実施者は損害賠償担保措置を講じなければならないことを定めた日本の法律です。2018年11月15日に施行されました。宇宙条約が、宇宙活動の国による継続的監督を求めていること、民間企業の宇宙活動を促進するために法制度を整える必要があったことから制定されました。

④宇宙資源法

宇宙資源を採掘した者がその採掘した資源の所有権を有すると定められています。2021年12月23日に施行されたばかりの日本の法律です。
ただ、この所有権についての規定には問題があります。宇宙空間は当然、どこの国のものでもありません。そして、現段階(2022年7月25日)では、採掘した宇宙資源が誰のモノになるかについて国際的な取決めがありません。そのため、日本の法律で「採掘した人のモノにします!」と決めても、他国から「そんなことを勝手に決めるな」と言われて揉める可能性があるのです。
しかし一方で、アメリカやルクセンブルクも国内の法律で日本と同様の規定を置いています。そのため、そういった国々の規定に引っ張られて事実上の国際的なルールも決まっていくかもしれません。今後の動きに注目です。

先だっては千葉県の有名人、前澤社長も宇宙旅行で国際宇宙ステーションに滞在されていましたね。私もいつか宇宙に行って無重力空間で起案してみたいものです。

 …と、ここまで書いて思い出しました。アメリカの宇宙飛行士、ケン・バウアーソックスさんをご存じでしょうか。
ケンさんは、あのコロンビア号事件のときに宇宙空間のスペースステーションにいた3人の宇宙飛行士のうちの1人です。コロンビア号事件のせいで地球に帰るための迎えが来なくなり、たった3人で宇宙に取り残されてしまったのです。事故原因がわかるまでスペースシャトル発射は無期限停止となり、物資も届きません。さて、あなたならどうしますか?

ケンさんたち3人は、まずエネルギーを節約するために使わない機器を全て停止しました。そして急に延長された宇宙生活で身体が弱り切らないよう、筋力トレーニングを行いながら方策を考えます。結論として、緊急脱出用のソユーズで帰還することにしたのですが、このソユーズ、実際には一度も帰還に使われたことが無い上、長期間そこに置きっぱなしだったという恐ろしい代物…。しかし、すったもんだの末、奇跡的に3人とも元気に地球に帰ってきたのです。

宇宙という異常な環境、物資は減っていくばかりという極限状態にあっても、冷静にモノを考えることができた、そして明るい気持ちを保つことができた3人だったからこそ帰還できたのでしょう。さすがは数千倍の倍率を勝ち抜いて選ばれた超人、宇宙飛行士です。

こんなことを思い出してしまうと、私の「宇宙で起案したい」などという軽い気持ちは吹き飛んでしまいます(笑)。インドア派弁護士は最近買ったばかりの室内プラネタリウムで、北斗七星でも探しながら眠ることにしましょう。そうすればもしかしたら、宇宙旅行の夢くらいは見られるかもしれません。

執筆: 弁護士 辻佐和子