自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか④
自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか①
自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか②
自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか③
最高裁判所平成29年12月7日判決
1、事案の内容
- 信販会社が販売会社から、割賦金等の取立て及び受領の委任を受けるとともに、購入者の委託を受けて割賦金等債務につき連帯保証する。
- 自動車の所有権は、販売会社の購入者に対する割賦金等債権を担保するために販売会社が留保すること、信販会社が、保証債務の履行として販売会社に割賦金等の残額を弁済した場合には、信販会社は、民法の規定に基づき、販売会社に代位して、割賦金等債権及び留保所有権を行使できる。
その後、売買代金債務の保証人(信販会社)が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、購入者の破産手続が開始した場合において、その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされてはいましたが、信販会社の所有者の登録はされではいませんでした。自動車の所有権などを主張するためには、破産手続開始までに登録が必要であることから(破産法49条2項)、この場合において、保証人は、上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができるかが争点となりました。この点について、最高裁は以下のように判断しました。
2、最高裁の判断
「自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ、売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、購入者の破産手続が開始した場合において、その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは、保証人は、上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができるものと解するのが相当である。その理由は、以下のとおりである。
保証人は、主債務である売買代金債務の弁済をするについて正当な利益を有しており、代位弁済によって購入者に対して取得する求償権を確保するために、弁済によって消滅するはずの販売会社の購入者に対する売買代金債権及びこれを担保するため留保された所有権(以下「留保所有権」という。)を法律上当然に取得し、求償権の範囲内で売買代金債権及び留保所有権を行使することが認められている(民法500条、501条)。そして、購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については、所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから、留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって、破産債権者に対する不測の影響が生ずることはない。そうすると、保証人は、自動車につき保証人を所有者とする登録なくして、販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができるものというべきである。」
平成22年判決との関係について、
「 以上によれば、被上告人は、上告人に対し、本件留保所有権を別除権として行使することができる。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例(最高裁平成21年(受)第284号同22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁)は、販売会社、信販会社及び購入者の三者間において、販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が、販売会社に留保された自動車の所有権について、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため、販売会社から代位によらずに移転を受け、これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関するものであって、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。」
まとめ
このような状況で、最高裁は、自動車につき保証人を所有者とする登録なくして、販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができると判断して、別除権の行使を認めました。これは、自動車の引き揚げに対する対応に大きな影響を与えます。すなわち、破産管財人としては、破産手続開始後、上記のような事案で所有権留保に基づく引き渡しを請求された場合、応じる必要があることになります。
では、破産手続開始前に自動車の引き揚げを要請された場合はどうか。
この場合については、免責不許可事由の偏頗行為にあたるか、のちに否認権の対象になるかという問題とかかわってきます。この点、偏頗行為が禁止されている趣旨は、債権者の平等を図る点にあり、所有権留保は別除権として、破産手続によらないで行使が可能なので(65条1項)、破産手続開始前に自動車の引き揚げ要請に応じても、債権者の平等を害することはありません。よって、平成29年判決のような事案(信販会社の取立・受領委任、連帯保証型の契約)の場合、破産手続開始前に自動車の引き揚げ要請に応じても、偏頗行為と判断されるリスクは低いです。
いずれにせよ、契約書の内容をよくチェックして、自動車の引き揚げ要請に応じてよいかを判断する必要があるので、弁護士にご相談ください。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。
執筆: 弁護士 辻悠祐