自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか③
自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか①
自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか②
否認権とは
下記の裁判例では、信販会社の自動車の引き揚げ行為が、否認権の対象となるかが問題となりました。
神戸地方裁判所平成27年8月18日判決
1、事案の概要
契約の内容は以下の通りでした。
- 購入者・販売会社間で売買契約、購入者・信販会社間で立替払い契約締結
- 立替払契約6条には、自動車の所有権は、信販会社が販売会社に立替払したことにより、信販会社に移転し、購入者が本件立替払契約に基づく債務を完済するまで信販会社に留保される旨(6条1項)、信販会社は、購入者が債務を完済するまでの間は車両の登録名義を信販会社名義にすることができる旨(6条2項)が定められている。
2、裁判所の判断
「被告は、破産者の被告に対する支払停止の通知を受領しており、破産者が支払不能に陥ったことを知りながら、本件充当行為を行っていたことが認められる。また、被告による本件充当行為は、破産財団を構成すべき本件車両の引渡しを受けて、これを換価して被告の破産者に対する立替金債権に充当し、債務を一部消滅させる効果を生じさせているところ、本件車両の引渡しの段階で、破産法162条1項にいう「債務の消滅に関する行為」に該当する行為があったと評価でき、同条項1号イに基づき、否認することができると解するのが相当である。」
本判決は、破産法162条1項の偏頗行為として、管財人の否認権行使を認めており、本件のような契約の場合、購入者が信販会社の引き揚げ要請に応じることは、偏頗行為であると判断した裁判例だといえます。
次回について
<参考条文>破産法
(破産債権者を害する行為の否認)
第百六十条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
第百六十二条 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項第一号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
一 債権者が前条第二項各号に掲げる者のいずれかである場合
二 前項第一号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
3 第一項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。
執筆: 弁護士 辻悠祐