残業代の請求が増える?

最終更新日: 2017年12月10日

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執筆: 弁護士 川﨑翔

残業代の時効が延長される可能性が出てきました。

残業代請求の時効が何年であるか皆さんご存知でしょうか。現状、時効は2年と規定されており、原則として2年分の残業代を請求することができます。
しかし今後は、5年分の残業代を請求できるようになるかもしれません。平成29年5月に民法の改正がありました。
主に債権に関する条文が改正されたのですが、大きなトピックになったのは「消滅時効」の規定の改正でした(「消滅時効」とは、権利を行使しないまま一定期間が経過した場合、その権利を消滅させる制度です。)。これまでの民法では、権利の種類によって消滅時効の期間がバラバラに規定されているという状況でした。例えば、個人間の貸金は10年(民法167条)、医師の診療報酬は3年(民法170条)、弁護士の報酬請求権は2年(民法172条)、飲食料は1年(民法172条)といった状況です。
これまでの民法は上記のとおり、非常に複雑になっており、知らないうちに時効期間が経過しているなどというケースもまれではありませんでした。

そこで、民法の改正にあたっては、以下のように消滅時効の規定をと統一しました。

  1. 権利を行使できることを知ってから5年
  2. 権利を行使することができるときから10年

のいずれか早い方。

シンプルな規定になったため、知らないうちに時効期間が過ぎているというような事態は減少すると思います。これ自体は歓迎すべきことです。

ここでひとつ問題になる点があります。
それが、最初に申し上げた「残業代」です。

残業代の請求権は2年で時効になります(労働基準法115条)。残業代の時効は民法ではなく、労働基準法に規定されているため、民法改正の直接の影響は受けません。

しかし、「消滅時効の期間がバラバラでわかりにくいので、わかりやすく統一しましょう」という民法改正の趣旨に合いません。

そこで、現在厚生労働省では、残業代の時効を5年に延長する方針で検討をしています。残業代の時効も5年に延長された場合、企業が受ける影響はかなり大きいと思います。

企業としてはきちんと残業代に対する制度設計をしておかないと、今以上のリスクになるということになります。5年分の残業代を複数の社員から一斉に請求されて敗訴した場合、破産という事態にもなりかねません。

今後は人口の減少も見込まれ、良い人材を得るためには、「残業代についてもきちんとした対応をしている」という姿勢が重要になります。
残業代の時効期間が5年に延長されるかもしれない、という今の時期に残業に関する制度設計を見直してみてはいかがでしょうか。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 川﨑翔