動物病院がペットを逃がしてしまった場合、動物病院にはどのような責任が?
1 はじめに
熊本県の観光牧場から、飼育している大型の鳥エミュー(ダチョウに似た動物)が逃げ出し、市の職員の方などが捕獲作戦を実行しているというニュースが報道されていました。本日は、動物病院の方に向けて、預かっていたペットが逃げてしまった場合に発生する動物病院側の法的責任についてご紹介させていただきます。
2 ポイント①「獣医療法上の逸走防止措置があります」
動物病院などの施設では、動物が逸走(逃げる)ことのないように、獣医療法及び同施行規則で、以下の規定が定められています。
(1)動物の逸走を防止するために必要な設備を設けること
- ・獣医療法
- 第4条診療施設の構造設備は、農林水産省令で定める基準に適合したものでなければならない。
- ・獣医療法施行規則
- 第2条法第四条の農林水産省令で定める診療施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
- 1 飼育動物の逸走を防止するために必要な設備を設けること。
(2)動物の逸走を防止するために必要な措置を講じること
- ・獣医療法
- 第5条開設者は、自ら獣医師であってその診療施設を管理する場合のほか、獣医師にその診療施設を管理させなければならない。
- 2 前項の規定により診療施設を管理する者(以下「管理者」という。)が、その構造設備、医薬品その他の物品の管理及び飼育動物の収容につき遵守すべき事項については、農林水産省令で定める。
- ・獣医療法施行規則
- 第3条法第5条第2項の農林水産省令で定める診療施設の管理者が遵守すべき事項は、次のとおりとする。
- 三 飼育動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずること。
以上のように、獣医療法及び同施行規則によって、動物の逸走を防止するために必要な設備と措置を講じることが動物病院側には求められています。そのため、動物の力では開けることのできないゲージを使用することや、戸締りや管理を徹底するなどの体制が整っていない場合は、獣医療法に違反する可能性があります。
3 ポイント②「行政による調査の可能性があります」
農林水産大臣又は都道府県知事は、獣医療法8条に基づき、「この法律の施行に必要な限度において、開設者若しくは管理者に対し、必要な報告を命じ、又はその職員に、診療施設に立ち入り、その構造設備、業務の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。」という調査権限が付与されています。そのため、動物の逸走事故が発生した場合は、同条の調査のきっかけとなり、行政機関から動物病院が調査を受ける可能性があります。万が一調査の結果、診療施設の構造設備が獣医療法第4条の基準に適合していないと認められた、もしくは、診療施設に関し遵守すべき事項が守られていないと判断されたときは、施設の使用を制限や、修繕若しくは改築を行うべきことを命ずることができる(獣医療法6条)とされています。この命令に違反した場合は、罰則が適用される可能性があります(獣医療法20条1号、同法22条50万円以下の罰金)
4 ポイント3「飼い主から損害賠償請求される可能性があります」
動物病院のケースではありませんが、ペットホテルで預かっていた犬が逃げていなくなってしまったというケースで、60万円の損害賠償を認めた裁判例があります(福岡地判平成21年1月22日)。ケースバイケースではありますが、預かっていたペットを返せなかったという点は、飼い主との間でペットを預かり診療し、診療後に返還するという契約内容に違反した債務不履行と評価される可能性があると思われます。
5 最後に
以上のように、動物病院が預かっていた動物を逃がしてしまった場合は、行政からの調査や飼い主からの損害賠償請求を受ける可能性があります。加えて、動物病院の評判にも関わり、今後の経営にも大きな支障が発生してしまう可能性があります。この機会に管理体制をしっかりと確認し、そのような賠償請求やトラブルに備えていただければと思います。
執筆: 弁護士 松本達也