動物病院の獣医師が怪我を、その場合の責任とは?

最終更新日: 2021年10月05日

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執筆: 弁護士 松本達也

1 はじめに

獣医師が、治療のために動物を預かった場合に、その動物が獣医師に噛みつくなどして大怪我を負ってしまうようなケースがあります。その場合、獣医師は、誰に対してどのような請求が出来るのでしょうか。本日は、法的観点から検討してみたいと思います。

2 飼い主に対して損害賠償請求できるのか?

獣医師と飼い主との間の契約内容は、獣医師がペットを診察したうえでペットに対して治療行為を行い、これに対して飼い主が診察費と治療費を支払うというものです。仮に預けたペットが、人にあまり慣れておらず、今までも治療行為の際に人に噛みついたことがあるような場合は、ペットを預ける際に、そのような性格のペットであることを獣医師に伝える義務があると判断される可能性があり、それを伝えなかった場合は、飼い主に対して損害賠償を請求できる可能性があります。しかし、そのような事情が存在しないケースでは、飼い主に損害賠償を請求することは難しいでしょう。

また、仮に買主に責任が認められるとしても、獣医師が発生した損害のすべてを飼い主に請求することは難しいです。すなわち、獣医師は、ペットを扱う専門家と言えます。そのため、獣医師側にもペットに治療行為を行う際に適正な処置をせずに噛まれてしまったという一定の落ち度があると判断される可能性は高いと思われます。一定の落ち度があると判断された場合は、民事賠償上、過失相殺という考え方がとられ、発生した損害の一部は請求できなくなってしまう可能性もあります。

以上より、獣医師が怪我をした場合に飼い主に対して損害賠償を請求することは、難しい場合が多いと考えられます。

3 労働災害との関係

業務中に獣医師が噛まれて大怪我を負ってしまった場合は、労働災害に該当する可能性があります。労働災害に該当すると判断された場合には、労災保険から治療費や休業損害の一部を受領できる可能性がありますので、被害に遭った獣医師の方は、労災が使用できないか確認すべきです。また、動物病院(雇用主)側に、獣医師が怪我を負わないように安全に配慮すべき安全配慮義務の違反があると認められた場合には、動物病院側が、獣医師に対して精神的苦痛に対する慰謝料の賠償義務を負う可能性もあります。動物病院側としては、日頃から従業員が怪我をしないように安全を確保するための施策を講じなければならないと言えます。

4 最後に

以上のように、動物病院の獣医師が怪我をした場合は、飼い主が責任を負う場合は少ないですが、動物病院(雇用主)が責任を負う可能性もありま。動物病院側としては、従業員が怪我をしてしまった場合に備えて、労災上乗せ保険に加入し、雇用主側に責任がある場合であってもその保険から賠償金を支払うという方法もありますので、ご興味がありましたら、労災上乗せ保険への加入を是非ともご検討ください。

執筆: 弁護士 松本達也