(1)山口組顧問弁護士VS普通の弁護士~山之内幸夫元弁護士の行為は今行えば逮捕もありえる事案

最終更新日: 2016年10月27日

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執筆: 弁護士 大澤一郎

「山口組顧問弁護士」山之内幸夫著(角川新書)を読みました。著者は元弁護士で暴力団山口組の顧問弁護士をしていました。

暴力団内部の事情や暴力団と関わる弁護士の実情が色々書かれていて非常に面白い本です。他方、私の感覚とは大幅にずれている点があったのも事実です。興味深かった箇所をまとめつつ、2016年時点の私(普通の弁護士)の感覚で異論・反論をまとめてみました。

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著者の行為は犯罪行為であり逮捕もありえる事案

私が一番違和感を覚えたのは暴力団の抗争事件の刑事裁判の所です。暴力団の抗争の中で、一方の組織が他方の組織の組員を殺害するという事件が本の中にあります。

その中で、著者は、殺害行為を行った組員Aの刑事弁護を行います。そして、虚偽の事実を組員Aに裁判で供述させます。
しかも、共犯者組員Bに(直接的か間接的かは不明ですが)逃亡するようアドバイスをします。
さらに、結果として逮捕された共犯者組員Bにも、他の共犯者Cとの共謀の日時・場所として虚偽の事実を警察に伝えるようアドバイスをしています。

著者の行為は、現時点の法律で考えると、証拠隠滅等(刑法第104条)、犯人隠匿等(刑法第103条)の各犯罪に該当する行為と思われます。また、証人等威迫(刑法第105条の2)にも該当しうる行為と思われます(注1)。実際、平成24年に有罪が確定した事案で、犯人の証拠隠滅に弁護士が加担して実刑判決となった事案もあります。

犯罪組織にとっては頼りになる弁護士

他方、著者のような行為は犯罪組織にとってはとても頼りになる行為でしょう。通常、犯罪組織の共犯事件で逮捕された場合、犯人は弁護士以外との面会は全て禁止になります(接見禁止)。犯人は当面家族とも会えません。
しかし、弁護士だけは逮捕された犯人と警察署で面会できるのです。しかも、弁護士との面会は警察官の立会いなしで行うことが保障されています(接見交通権)。
とすると、犯罪組織にとっては、自らの組織の都合を優先して弁護士経由で犯人を説得することができるのです。例えば、「共犯者のことは絶対にしゃべるな」と弁護士経由で脅したり、他方、「警察から出てきたら報酬を渡す」などと弁護士経由で懐柔することもできてしまうのです。
さらに、捜査状況を弁護士が犯人から聞いた上で、その捜査状況を弁護士が犯罪組織に伝えて証拠隠滅・犯人隠匿の手伝いをすることもできてしまうのです。
私は、2016年時点において、犯罪組織の側の立場に立って違法・不当な弁護活動を行う弁護士など1人もいないと信じたいです。ただ、最近弁護士は不祥事が多いので、「悪徳弁護士」と呼ばれても仕方がないような弁護士もいるような気がします。

(おそらく)証拠隠滅・犯人隠避の依頼を受けた私の経験

以前、国選事件(裁判所から依頼される刑事事件)で覚せい剤の共犯事件を取り扱った際のことです。警察に面会に行くと「携帯電話番号を教えるから○○さんに伝えて欲しいことがある」と言われました。

私:わかりました。何を伝えればよいですか。
犯人:「西の方に特に注意をしてほしい」と伝えてください。(注2)
私:「???。どういう意味ですか?」
犯人:「伝えてもらえればわかりますから」
私:「伝えればわかるのかもしれませんが、私に意味がわからないのですが・・・。私が伝言の中身を理解できれば伝えますよ。」
犯人「いいからそのまま伝えてください。」
私:「私が意味がわからないものは伝えられません!」

おそらく、何か暗号のようなものがあったのだと思います。犯人との中は険悪になりましたが、最後まで私は外部の第三者には伝えませんでした。証拠隠滅・犯人隠避になりそうな発言は普通の弁護士は外部の人には伝えないものです。

(2)で交通事故の事件屋(謎の代理人)は今はほとんど存在しないに続く

(注1)法律の内容・運用・解釈は時代によって変わります。著者の行為は数十年前の行為ですので当時と現在では法律をめぐる状況は異なっています。また、読者に面白く読んでもらうという文庫本の特色故に事実関係を大幅に単純化している可能性もあります。あくまで、私の意見は文庫本に記載がされた事実を前提とし、また、2016年時点での法律を前提とした意見としてご理解ください。

(注2)実際には違う発言でしたが、全く意味がわからない発言の具体例としてあげています。

執筆: 弁護士 大澤一郎