「山口組顧問弁護士」(山之内幸夫著)を弁護士が読んだ感想
1. 「山口組顧問弁護士」山之内幸夫著(角川新書)の感想
「山口組顧問弁護士」山之内幸夫著(角川新書)を読みました。著者は元弁護士で暴力団山口組の顧問弁護士をしていました。
暴力団内部の事情、暴力団と関わる弁護士の実情がとても面白い本です。
他方、私の感覚とは大幅にずれている点もありました。。
そこで、2016年時点の私の感覚で、共感できる部分と共感できない部分を取り上げたいと思います。
2. 暴力団抗争事件での証人とのやり取りに違和感
私が一番違和感を覚えたのは、暴力団の抗争事件の刑事裁判です。抗争で、一方の組織が他方の組織の組員を殺害するという事件です。
その中で、殺害行為を行った組員Aの刑事弁護を著者はします。そして、虚偽の事実を組員Aに裁判で供述させます。
しかも、(直接的か間接的かは不明ですが)共犯者組員Bに逃亡するようアドバイスをします。
さらに、結果として逮捕された共犯者組員Bにも、他の共犯者Cとの共謀の日時・場所について、虚偽の事実を警察に伝えるようアドバイスをします。
著者の行為は、現時点の法律で考えると、証拠隠滅等(刑法104条)、犯人隠匿等(刑法103条)、証人等威迫(刑法105条の2)に該当しうる行為です。
もちろん、何十年も前と現在では、法律自体も違いますし、法律の運用も違っていたはずです。とはいえ、普通の弁護士であれば、何十年も前であっても証拠隠滅等への加担はしなかったはずです。刑事事件での対応には違和感を感じます。
3. 指摘に納得・共感できる部分
刑事事件での対応には違和感を感じましたが、指摘に納得・共感できる部分も多かったです。たとえば、①暴力団をやめたら生活できない②親の愛情の欠落③社会は矛盾だらけという指摘です。
① 暴力団をやめたら生活できない
「やめられる位なら最初から入っていない。実のところヤクザをやめたら、シャブの売人で日銭を稼ぐか、盗っ人専門で食っていく位しか仕事がない。それほど底辺の人間だからヤクザをやっているのである。」という指摘がありました。
仮に暴力団をやめても、過去に暴力団であったことを理由とするさまざまな制限があります。
純粋な気持ちで暴力団をやめようと必死で努力している人が生活できる社会になって欲しいものです。
② 親の愛情の欠落
「人がヤクザになる背景には差別や貧困、親の愛情の欠落等本人の責に帰しえない事情がうかがわれ、幼少年期に形成された劣等感は克服が極めて難しい。」という指摘がありました。
暴力団ではなくても、刑事事件で被疑者や被告人になる人はこのようなパターンが経験上多いです。そのような人たちが幸せに暮らせる社会に少しでもなって欲しいです。
③ 社会は矛盾だらけ
『ヤクザの収入減で一番大きい仕事が覚せい剤だ。(中略)山口組が覚せい剤を禁止しているのは覚せい剤の弊害を身を以て知っているからだ。「シャブは絶対にいかん」と本気で思っている。ただ現実には理想通りにもいかないが。それなら「何がいいのでしょうか」と、もし問われたら多分「勉強して、頭を使って民事介入暴力でスマートにしのぎなさい」という答えが返ってくるだろう。』という指摘がありました。
社会はさまざまな矛盾だらけであることを感じさせる指摘です。きれいごとを言っても結局は実力主義・結果主義になることが多い社会の矛盾を感じさせます。
4. 著者の活動
多数の著書執筆や映画監修など、著者はさまざまな分野で活躍しています。
また、山之内幸夫チャンネルというYOUTUBEもやっています。暴力団全般をとてもわかりやすく解説しています。
年齢を感じさせない新たなチャレンジを続けていて、私も見習いたいです。
関連情報
執筆: 弁護士 大澤一郎