獣医療における説明義務違反

最終更新日: 2021年12月23日

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執筆: 弁護士 松本達也

1 はじめに

病院で治療を受ける際に、医師からの説明を受け納得しましたといういわゆるインフォームドコンセントが問題となることがあります。このインフォームドコンセントは人の治療の現場だけに適用されるものではなく、獣医療の現場においても重要となります。本日は、獣医療現場におけるインフォームドコンセントのポイントを3つご紹介させていただきます。

2 ポイント①獣医療における説明義務とは

動物病院が、飼い主から依頼を受けてペットの治療を行うこととなった場合、この診療契約は民法上、準委任契約(民法645条)に当たると考えられています。そして、診療契約において獣医師は、飼い主に対して診療内容について説明すべき義務を負っていると考えられています。

公益社団法人日本獣医師会は、平成11年9月14日に、獣医師および獣医師会に対する社会の信頼を高め、より適正な動物医療を提供することを目的に、「インフォームドコンセント徹底宣言」を公表しています。

同宣言は、まず獣医師と飼い主とのコミュニケーションを深めるため、ペット動物の病気に関する説明、その病状、治療方針、予後、診療料金などについて十分に説明を行い、了解を得て治療などを行うとともに、各種診療情報を積極的に開示するということを掲げています。

3 ポイント②裁判例上の説明義務の程度を理解する

獣医療における説明義務違反が争われた裁判例は数多くあります。その中でも、名古屋高裁金沢支判平成17年5月30日判タ1217・294では、具体的な考え方が裁判所から示されています。

~以下裁判例の引用ペットは、財産権の客体というにとどまらず、飼い主の愛玩の対象となるものであるから、そのようなペットの治療契約を獣医師との間で締結する飼い主は、当該ペットにいかなる治療を受けさせるかにつき自己決定権を有するというべきであり、これを獣医師からみれ
ば、飼い主がいかなる治療を選択するかにつき必要な情報を提供すべき義務があるというべきである。そして、説明義務として要求される説明の範囲は、飼い主がペットに当該治療方法を受けさせるか否かにつき熟慮し、決断することを援助するに足りるものでなければならず、具体的には、当該疾患の診断(病名,病状)、実施予定の治療方法の内容、その治療に伴う危険性、他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失、予後などに及ぶものというべきである。裁判所の上記の考え方を前提にすると、獣医師がペットに対する診療行為を行うにあたっては、①病名や症状②実施予定の治療の内容③治療に伴う危険性④その他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失⑤予後などについて説明を行う必要があると言えます。

4 最後に

裁判例を検討すると、説明を果たしたか否かという点で争いになっているケースが多いように見受けられました。そのため、動物病院側は、説明を果たしたことを証明する「同意書」を取り交わしておくことが、のちの紛争を回避するためには極めて重要であると言えます。

尚、同意書の内容が例えば、「入院治療中にどのような事故が発生しても当院は一切の責任を負いません」などという内容であった場合は、消費者契約法8条によって、同意書が無効になる可能性があります。

いざ紛争に発展してしまうと、動物病院側も飼い主側も多大な負担が発生してしまいます。そのような紛争を避けるためにも、双方がしっかり納得して治療行為を進めることが肝要であり、そのためには、同意書をしっかりと作成すべきです。

現在使用している同意書の内容について心配な動物病院様は、一度専門家にご相談されることをお勧めいたします。

執筆: 弁護士 松本達也