慰謝料算定の実務 第3版

よつば総合法律事務所の弁護士4名が、慰謝料の金額が問題となった裁判例を分析する書籍を執筆しました。
坂口香澄根來真一郎前田徹村岡つばさ)(共著)

書籍の概要

男女間のトラブル、労働関係、消費者取引など、様々な事件分類毎(計16分野)に、慰謝料の金額が問題となった裁判例を分析している書籍です。主に弁護士向けの書籍です。千葉県弁護士会所属の弁護士計130名が執筆を担当しています。

よつば総合法律事務所からは、坂口が「子どもの権利」、根來が「消費者取引・金融取引」、前田が「工作物・営造物」、村岡が「労働関係」のパートをそれぞれ担当しました。

「子どもの権利」パート担当 弁護士坂口香澄からのコメント

11章「子どもの権利」部分の執筆に携わりました。この章では、学校・幼稚園での事故、いじめ、不適切指導、虐待などの子どもに関わる裁判例を紹介していますが、私はとりわけ学校事故、いじめ、不適切指導に関する裁判例調査・分析を担当しています。

本書は慰謝料が認められた事案のみを掲載しているため、「慰謝料は発生しない」と判断された事例は載っていません。しかし、特にいじめ事案の裁判例調査の中では、「(いじめではあるが)不法行為にはあたらない」「慰謝料ゼロ」の事案も散見されました。いじめ防止対策推進法上、学校側が支援・指導を行う「いじめ」にも、悪質なものから良かれと思って行ったものまで、その態様は様々です。そのため、裁判においては必ずしも「いじめ」イコール「不法行為」ではなく、「いじめだけど不法行為とまではいえない」という判断もありえます。一方で、いじめが発生した際の学校の対応を問題視して指摘して慰謝料を認めた裁判例もありました。

弁護士として子どもの教育環境を守る立場で学校と関わる際には本書執筆の経験を活かしていきたいと思います。

「消費者取引・金融取引」パート担当 弁護士根來真一郎からのコメント

消費者問題委員会に所属している弁護士が中心となり、消費者取引・金融取引分野の執筆を行いました。

消費者取引・金融取引分野と一口に言ってもその範囲は幅広いため、具体的には消費者取引については消費者信用取引、建物賃貸借トラブル、悪徳商法、製造物責任、教育関係、詐欺被害等に関する裁判例を、金融取引については証券取引、商品先物取引に関する裁判例を取り上げました。特に金融取引分野においては、仮に不法行為責任が認められた事案だとしても、そもそも慰謝料請求自体がされていないことが多く、慰謝料が請求されていたとしても取引により被った財産的損害が賠償されれば損害は填補されるとして慰謝料が認められない裁判例が多いのが現状です。ただ、取引が害意を持ってなされる等、一定の場合には慰謝料が認められる余地があります。

慰謝料が認められた裁判例が少ないため、とにかく数多くの裁判例にあたりました。調査を通して数多くの裁判例を読み込み、今まで触れたことがなかった専門的な裁判例集が刊行されていることを知る機会となり、大変勉強となりました。

「工作物・営造物」パート担当 弁護士前田徹からのコメント

私は、工作物・営造物にまつわる事故の分野の執筆に携わりました。具体的には、工作物・営造物の設置や保存に瑕疵があったことが原因で損害が発生した場合に、慰謝料が認められるかについて判断した裁判例を取り上げて、整理を行いました。
分かりやすくするために、死亡事故、傷害事故及び物損事故に分類して数多くの裁判例を分析しました。
結論としては、基本的に、死亡事故及び傷害事故では慰謝料が認められ、物損事故では慰謝料は認められない傾向にあります。
傷害事故では、高齢者向けグループホームの2階居室の窓に設置された転落防止のためのストッパーに不備があったために、入居者が転落して重症を負った事故や、飲食店の出入口のドアのドアクローザーに不備があったために客が指を挟んで指を切断した事故では、施設側に多額の賠償義務が認められていたのが印象的でした。
多くの裁判例の分析を進める中で、施設管理の重要性を改めて認識しました。

「労働関係」パート担当 弁護士村岡つばさからのコメント

労働問題対策委員会に所属している弁護士が中心となり、労働分野の執筆を行いました。
労働事件においては、慰謝料が問題となる事案もそれなりに多く、例えばハラスメントや解雇により精神的苦痛を被ったとして、労働者から会社に慰謝料請求がなされることがあります。このうち、解雇の事案では、解雇時からの未払賃金の支払が別途命じられる(バックペイなどと呼ばれます)こともあり、慰謝料請求自体否定されることも多いですが、解雇の態様が悪質な事案や、労働者の名誉を著しく低下させるような場合、労働者が著しい不利益を被る場合などでは、相当程度の高額の慰謝料請求を認めている裁判例もあり、会社側としては注意が必要です。

今回の第3版で紹介した、労働関係の裁判例は合計136件ありましたが、今回の執筆で新たに知った裁判例などもあり、個人的にもとても勉強になりました。今年の4月に発売された「過失相殺率算定の実務」でも、多くの裁判例を分析しましたので、この執筆の経験を、今後の実務対応に活かしたいと思います。

過失相殺率算定の実務

当事務所の弁護士村岡つばさが、過失相殺が争われた裁判例を分析する書籍を執筆しました(労災事件の執筆を担当しております)。

書籍の概要

男女関係、医療、労災、スポーツ事故、消費者被害等、様々な事件分野毎(計16分野)に、過失相殺が争われた裁判例(計1108件)を分析しております。主に弁護士向けの書籍です。

担当弁護士村岡つばさからのコメント

労働者側、会社側を問わず、労災案件の取り扱いが多かったので、労災分野の執筆者(責任者)を担当させていただきました。労災分野の裁判例は156件とかなり多く、裁判例の分析・考慮要素の抽出に苦慮しましたが、執筆の過程で多くの裁判例を検討したため、個人的にも非常に勉強になりました。
特に労災案件の場合、会社の責任があることは争いようがなく、労働者にどの程度の過失があったかという点が大きな争点になることも多くあります。今回の執筆の経験を、今後の労災案件の対応に活かしたいと思います。

本書籍に関連するよくある質問

Qよつば総合法律事務所では、労災事件の取り扱いは多いですか?
A労働者側、会社側問わず、労災事件の取り扱いは多くございますので、お困りの労働者様、企業様は、お気軽にお問合せください。

労災でお困りの労働者の方はこちらのページを、企業様はこちらのページをご覧ください。

なお、村岡が講師を務めた、会社側の労災対応に特化したセミナー動画も販売されております(詳しくはこちらのページをご覧ください)。

Q労災事件では、どのような要素が労働者側の過失として考慮されますか?
A労災事案の類型毎に考慮要素が異なります。

例えば、過重労働やハラスメント等に起因する労災事案では、①既存障害、②健康管理上の問題、③業務量の調整を自ら行うことができたのにしなかった、④業務過多・体調不良等を会社や上司に報告・相談していない、⑤私生活や自らの業務上の問題行動が心身の負荷の原因になっている、といった事情が労働者側の過失として考慮されることが多いです。

他方、機械の操作や、設備等に起因する労災事案では、①労働者の行為自体の危険性の程度や、注意義務違反の程度、②社内研修・教育の有無、③労働者自身の経験といった事情が、労働者側の過失として考慮される傾向にあります(特に①が重要です)。

Q労災事故に遭った労働者側です。どのような点に注意したら良いでしょうか?
A労災事故直後については、「正確に事故の状況を伝える」ことが重要です。

会社は労働基準監督署に対し、「どのような理由で労災事故が起きたか」を報告する必要があり、この関係で、事故状況を記載した書面が労基署に提出されます。もっとも、会社の責任を軽減する観点や、労働基準法・労働安全衛生法に違反していたことを隠すために、実際の事故態様と異なる事故態様を記載した書面が労基署に提出されてしまうケースもあります。

このようなケースで、会社から「話を合わせて欲しい」「この書面にサインして欲しい」等と言われ、よく考えずにこれに応じてしまうと、後々、会社への損害賠償を検討する際にマイナスになってしまうことがあります。

また、安易に書面にサインしない、というのも重要です。特に、「示談書」「合意書」といった類の書面には注意が必要です。「本来請求できる金額より大幅に低い金額にて示談してしまった」という事態にならないように、少しでも疑問に感じたら、弁護士に相談されることをお勧めします。

Q会社内で労災事故が発生し、労働者から損害賠償請求を受けています。労災保険を使っているのに、なぜ会社が損害賠償請求を受けるのですか?
A労災保険では、被災労働者に対し一定の補償がなされます。例えば、治療費は、基本的にはすべて労災保険で支払われますし、休業損害や、逸失利益(後遺障害が残った場合や被災労働者が死亡した場合に、将来の労働に生じる影響分)の一部は、労災保険により支払われます。

ただし、労災保険では、慰謝料は一切補償されませんし、先に見た通り、休業補償や逸失利益は一部しか支払われません。そのため、会社が賠償責任を負う事案では、労災保険から支払われる金額とは別に、会社が損害賠償責任を負うこととなります。重篤な後遺障害が残ってしまったケースや、被災労働者が死亡してしまった事案では、数千万円~億を超える賠償責任が会社に発生することもあります。

特に、現場災害が発生し得る業種(建設業、工場内作業等)、長時間労働が常態化している会社では、いつ重大な労災事故が発生してもおかしくありません。

万が一の労災事故の発生に備え、労災保険とは別に、民間の労災上乗せ保険(使用者賠償責任保険等と呼ばれます)に加入することをお勧めしています。

Q労災事件が発生した場合、会社はどのような責任を負いますか?
A上で見た、民事上の賠償責任もありますが、例えば、労働安全衛生法や労働基準法に違反したことを理由に、行政上の責任や刑事上の責任を負う可能性もあります。特に、建設業や運送業等、許認可が絡む業種では、これらの違反を理由に営業停止や許可取消し等の行政処分を受ける可能性もあり、影響は非常に大きいです。

また、このような法的責任だけでなく、いわゆる「レピュテーション」の問題もあります。労働基準法等に違反し、「送検」される場合、企業名が公表されることもあります。また、SNS等により労災事故の発生が拡散されることもあり、「労災事故が発生するような会社=ブラック企業」というレッテルを貼られる可能性があります(特に過重労働やパワハラ等のケース)。

(文責:弁護士 村岡 つばさ

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家族で話すHAPPY相続

相続・遺言・不動産・保険など相続で発生する問題について共同執筆をしました。

書籍の概要

相続には落とし穴がたくさんあります。こうした落とし穴について、さまざまな専門家から解説し、皆さんにHAPPYな相続をしていただきたい、そう考えて本書を世に出すことにしました。
法務・税務の専門家がいますので、その基本をしっかり学べるのは当然として、日本人の財産に占める比率の高い不動産に関する解説が充実しています。また、保険を使った賢いノウハウも学ぶことができます。それをとにかくわかりやすく、かみ砕いてみました。

よつば総合法律事務所よりコメント

相続アドバイザー協議会23期有志による共著です。相続対策はほとんどが生前でなければ行うことができません。遺言・不動産・保険その他相続問題について家族で話してHAPPYな相続につなげていただければ幸いです。

関連情報

相続イメージ

弁護士10年目までの相談受任力の高め方

交通事故部分について、新規相談・受任率・リピーター率の向上のための方法を執筆しました。

書籍の概要

離婚、相続、交通事故、企業法務について、相談・受任・リピーターやファンを増やす方法についての書籍です。執筆者は以下となります。
離婚分野 弁護士中里妃沙子先生
相続分野 弁護士高橋恭司先生
交通事故分野 大澤一郎
企業法務分野 弁護士大山滋郎先生、弁護士藤井総先生

担当弁護士大澤一郎からのコメント

書籍出版にあたり、共著の中里妃沙子先生、高橋恭司先生、大山滋郎先生、藤井総先生とお会いする機会もあり、とても有意義な時間を過ごさせていただきました。また、交通事故分野の執筆を私に任せたいただき大変感謝しています。
よつば総合法律事務所では、「事故直後からのアドバイスが被害者救済には必要」という考えの元、2010年ころから交通事故の被害者救済に取り組んでいます。
特に、残念ながら後遺障害が残ってしまう怪我の場合、事故直後の対応がよくなかったことにより、本来もらえるはずの適正な保険金がもらえないという事案は多いです。
今回の書籍が、「適正な保険金を適正に受領する」という交通事故の被害者救済の参考となれば幸いです。 

その他関連情報

弁護士バッジと六法全書

本書籍に関連するよくあるご質問

Qよつば総合法律事務所は交通事故に詳しいですか?
A詳しいと自負しています。実績などの詳細は、交通事故でよつば総合法律事務所が選ばれる5つの理由をご参照下さい。
Q事故直後ですが相談はできますか?
Aできます。よつば総合法律事務所では2010年ころから事故直後の相談が大切という価値観に基づき業務を行っています。
Q交通事故に初めてあって怪我をしました。どのような流れで進みますか?
A①事故発生、②警察や相手方との対応、③治療・リハビリ、④治療費打ち切り、⑤(後遺症が残った場合)症状固定・後遺障害の等級認定、⑥示談案の停止、⑦示談交渉・訴訟、という流れで進みます。
参考:交通事故問題解決の流れの詳細解説
Q事故直後に気を付けた方がよいのはどのような点ですか?
A①加害者対応、②警察対応、③病院対応、④保険会社対応などに注意しましょう。
【解説】
例えば、次のような対応が必要となります。
・①加害者対応としては、名前・住所・電話番号・ナンバープレートなどの情報を把握しましょう。
・②警察対応としては、110番通報をして事実を正しく伝えましょう。
・③病院対応としては、怪我をしているのであれば事故当日(遅くとも事故翌日)には病院に行きましょう。
・④保険会社対応としては、加害者の保険会社情報を把握しましょう。
参考:事故発生時の対応の詳細解説
Q比較的多いご相談について教えてもらえますか?
A①慰謝料を増額したい、②保険会社からの金額提示が適切かどうか見て欲しい、③保険会社から治療費の打ち切りを言われているが何とかしたい、というご相談が比較的多いです。もっとも、事故直後の段階から裁判の段階まで様々なご相談を受付しています。
参考:過去のご相談事例
参考:慰謝料増額のポイント
参考:示談交渉のポイント
参考:打ち切り対抗策
Q加害者の相談は受付していますか?
A申し訳ございません。当事務所は被害者専門となっています。

参考リンク

弁理士受験新報 2012年5月号

「特許法(出願過程全体を参酌した用語の解釈)・切り餅事件」について,判例解説の記事を執筆しました。