慰謝料算定の実務 第3版

慰謝料算定の実務 第3版
著者
坂口香澄、根來真一郎、前田徹、村岡つばさ(共著)
出版社
株式会社ぎょうせい
JANコード
978-4-324-11312-7
発売日
20230903
購入先
ぎょうせいオンラインショップ で購入

よつば総合法律事務所の弁護士4名が、慰謝料の金額が問題となった裁判例を分析する書籍を執筆しました。
坂口香澄根來真一郎前田徹村岡つばさ)(共著)

書籍の概要

男女間のトラブル、労働関係、消費者取引など、様々な事件分類毎(計16分野)に、慰謝料の金額が問題となった裁判例を分析している書籍です。主に弁護士向けの書籍です。千葉県弁護士会所属の弁護士計130名が執筆を担当しています。

よつば総合法律事務所からは、坂口が「子どもの権利」、根來が「消費者取引・金融取引」、前田が「工作物・営造物」、村岡が「労働関係」のパートをそれぞれ担当しました。

「子どもの権利」パート担当 弁護士坂口香澄からのコメント

11章「子どもの権利」部分の執筆に携わりました。この章では、学校・幼稚園での事故、いじめ、不適切指導、虐待などの子どもに関わる裁判例を紹介していますが、私はとりわけ学校事故、いじめ、不適切指導に関する裁判例調査・分析を担当しています。

本書は慰謝料が認められた事案のみを掲載しているため、「慰謝料は発生しない」と判断された事例は載っていません。しかし、特にいじめ事案の裁判例調査の中では、「(いじめではあるが)不法行為にはあたらない」「慰謝料ゼロ」の事案も散見されました。いじめ防止対策推進法上、学校側が支援・指導を行う「いじめ」にも、悪質なものから良かれと思って行ったものまで、その態様は様々です。そのため、裁判においては必ずしも「いじめ」イコール「不法行為」ではなく、「いじめだけど不法行為とまではいえない」という判断もありえます。一方で、いじめが発生した際の学校の対応を問題視して指摘して慰謝料を認めた裁判例もありました。

弁護士として子どもの教育環境を守る立場で学校と関わる際には本書執筆の経験を活かしていきたいと思います。

「消費者取引・金融取引」パート担当 弁護士根來真一郎からのコメント

消費者問題委員会に所属している弁護士が中心となり、消費者取引・金融取引分野の執筆を行いました。

消費者取引・金融取引分野と一口に言ってもその範囲は幅広いため、具体的には消費者取引については消費者信用取引、建物賃貸借トラブル、悪徳商法、製造物責任、教育関係、詐欺被害等に関する裁判例を、金融取引については証券取引、商品先物取引に関する裁判例を取り上げました。特に金融取引分野においては、仮に不法行為責任が認められた事案だとしても、そもそも慰謝料請求自体がされていないことが多く、慰謝料が請求されていたとしても取引により被った財産的損害が賠償されれば損害は填補されるとして慰謝料が認められない裁判例が多いのが現状です。ただ、取引が害意を持ってなされる等、一定の場合には慰謝料が認められる余地があります。

慰謝料が認められた裁判例が少ないため、とにかく数多くの裁判例にあたりました。調査を通して数多くの裁判例を読み込み、今まで触れたことがなかった専門的な裁判例集が刊行されていることを知る機会となり、大変勉強となりました。

「工作物・営造物」パート担当 弁護士前田徹からのコメント

私は、工作物・営造物にまつわる事故の分野の執筆に携わりました。具体的には、工作物・営造物の設置や保存に瑕疵があったことが原因で損害が発生した場合に、慰謝料が認められるかについて判断した裁判例を取り上げて、整理を行いました。
分かりやすくするために、死亡事故、傷害事故及び物損事故に分類して数多くの裁判例を分析しました。
結論としては、基本的に、死亡事故及び傷害事故では慰謝料が認められ、物損事故では慰謝料は認められない傾向にあります。
傷害事故では、高齢者向けグループホームの2階居室の窓に設置された転落防止のためのストッパーに不備があったために、入居者が転落して重症を負った事故や、飲食店の出入口のドアのドアクローザーに不備があったために客が指を挟んで指を切断した事故では、施設側に多額の賠償義務が認められていたのが印象的でした。
多くの裁判例の分析を進める中で、施設管理の重要性を改めて認識しました。

「労働関係」パート担当 弁護士村岡つばさからのコメント

労働問題対策委員会に所属している弁護士が中心となり、労働分野の執筆を行いました。
労働事件においては、慰謝料が問題となる事案もそれなりに多く、例えばハラスメントや解雇により精神的苦痛を被ったとして、労働者から会社に慰謝料請求がなされることがあります。このうち、解雇の事案では、解雇時からの未払賃金の支払が別途命じられる(バックペイなどと呼ばれます)こともあり、慰謝料請求自体否定されることも多いですが、解雇の態様が悪質な事案や、労働者の名誉を著しく低下させるような場合、労働者が著しい不利益を被る場合などでは、相当程度の高額の慰謝料請求を認めている裁判例もあり、会社側としては注意が必要です。

今回の第3版で紹介した、労働関係の裁判例は合計136件ありましたが、今回の執筆で新たに知った裁判例などもあり、個人的にもとても勉強になりました。今年の4月に発売された「過失相殺率算定の実務」でも、多くの裁判例を分析しましたので、この執筆の経験を、今後の実務対応に活かしたいと思います。