雇用解消対応の勘所

開催日時:
2026年05月22日 14:00 〜 15:00
セミナー分類:
債務整理
主催:
千葉県社会保険労務士会
講師:
村岡 つばさ 村岡 つばさのプロフィール
対象者:
社会保険労務士の先生

雇用解消対応の勘所

セミナー報告

千葉県社会保険労務士会様からお声がけいただき、「雇用解消対応の勘所」というテーマにて、研修講師を担当しました。

会場参加・オンライン参加を含め、多くの先生方にご参加いただきました。ご参加いただいた先生方、ありがとうございました。

研修を開催した背景と目的

社会保険労務士の先生方は、企業の人事労務について経営者から最初に相談を受ける立場にあります。

アドバイスが最終的な結果を大きく左右するため、解雇リスクを正確に把握した上で、事案によっては企業の意向に反する場合であっても、解雇を止めなければならないこともあります。

本研修では、弁護士の視点から、なぜ解雇がリスクの高い選択肢であるかを解説するとともに、問題従業員の類型別に、雇用解消の実務的な対応策をご紹介しました。

研修の内容

1. はじめに

まず冒頭で、解雇事件を多く扱う弁護士としての所感を述べました。

日々、様々な企業より、「問題社員を辞めさせたい」との相談を受けています。

しかし、多くの経営者は解雇のハードルの高さや、敗訴した場合のリスクを十分に理解しないまま、安易に解雇を選択しようとするケースが後を絶ちません。経営者からはよく「本人も納得している」「揉めないと思う」との話がされますが、これは全く当てになりません。

弁護士へのアクセスが容易になったことや、生成AIの普及により、解雇事案が紛争化するリスクは近年非常に高まっています。特にここ半年は、労働者が弁護士に依頼せず、自身で労働審判や訴訟対応している事案を多く目にしています。

そのため、「紛争化する可能性が極めて高い」ことを念頭において、各種リスクを正確に把握したうえで、解雇を選択することが重要です。

2. なぜ弁護士は解雇を勧めないのか

弁護士が解雇を勧めない理由は多岐に亘りますが、以下の①~③が主な理由です。

① 解雇有効と判断されるためのハードルが非常に高いこと
② 解雇無効と判断された場合のダメージが非常に大きいこと
③ 勝ち負けにかかわらず、相応のコスト(弁護士費用、訴訟対応のための担当者の時間など)がかかること

① 解雇有効と判断されるためのハードルが非常に高いこと
「普通に考えたら解雇有効」と思われる事案でも、企業が負けている事案は多いです。

例えば、1年半の期間で、計100回にわたり、総額50万円以上の旅費の不正請求が行われた事案でも、他の従業員との処分の均衡などが理由で、解雇無効と判断されている裁判例があります。

この事案では、第一審は解雇有効と判断されたものの、高裁で解雇無効となっています。
「ここまでの行為をすれば解雇有効」という基準がなく、また担当裁判官によっても判断が分かれる点が、解雇事案をより難しくしています。

② 解雇無効と判断された場合のダメージが非常に大きいこと
解雇無効と判断された場合、会社が多額の金銭的ダメージを被ることとなります。

例えば、ご紹介した旅費の不正請求の事案では、約1700万円もの金銭請求が会社に命じられています。

加えて、解雇が無効である以上、「現在も雇用契約が続いていること」も認定されています。

要は、働いていないにも関わらず、解雇が争われている期間の給与全額を支給しなければならない上、解雇した労働者が会社に戻ってくることとなります。

③ 勝ち負けに関わらず、相応のコスト(弁護士費用、担当者の対応時間など)がかかること
無視できないのが、弁護士費用や、担当者の対応時間などのコストです。これは、解雇事案の勝ち負けに関わらず、解雇事件が紛争化した場合に、不可避的に生じるコストです。

「解雇の紛争に巻き込まれること」自体、会社にとって大きな負担となります。

3. 類型別雇用解消対応

① 不完全な労務提供型
遅刻・欠勤・早退が多い従業員は、この類型に該当します。

不完全な労務提供型で一番重要なのは、「原因を特定すること」です。

例えば遅刻が多い場合、単なる怠慢や不摂生で遅刻しているのか、病気が背景にあり、起床できないのかを確認する必要があります。

メンタルヘルスが原因と思われる場合には、医師の受診を勧めた上で、必要に応じて休職対応を検討することとなります。この場合、就業規則の内容をよく確認し、就業規則にて定められた休職のルールに沿って、適切に休職手続を進めることが重要です。

他方、不完全な労務提供が単なる怠慢の場合には、改善してもらうために注意指導を積み重ねていくこととなります。

この類型で一発解雇は非常に厳しいですが、病気とは無関係で、かつ無断欠勤が相当期間継続する場合には、解雇も視野に入れることとなります。

② 勤務態度不良・能力不足型
この類型では、労働者に認知の歪みがあることが多いです。

認知が歪んでいることを自覚していない状況で、会社が注意指導を行っても、「自分は悪くない」「評価されていない」「何で自分だけ」などと反発することが多いです。

そのため、注意指導を行う前提として、労働者の認知が歪んでいることを自覚してもらう必要があります。

この類型では、会社が根気よく、労働者と向き合うことが非常に重要です。

③ ハラスメント型
ハラスメント型の最大の特徴は「被害者」が存在することです。問題社員をどうするかだけでなく、被害者をいかに守るかという視点が必要になります。

対応の流れは「ヒアリング→事実認定→法的評価→適切な事後対応」ですが、それぞれのステップに専門的知識と経験が求められるため、非常に難しいです。

なお、身体接触を伴う重度のセクハラ事案でもない限り、ハラスメント型で即時解雇が有効とされるケースは非常に少ないです。適切な調査・認定プロセスを経た上で、重大な事案については、退職勧奨を実施するのが望ましいです。

参加者の声

  • 先生の研修はめちゃくちゃ血が通っていて、面白いし勉強になります。
  • 本日はありがとうございました。解雇って、解雇できたらよかったではなくて、その後のリスクが半端なかったんだなと痛感しました。
  • お話が具体的で参考になりました。

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