千葉県産科婦人科医学会の令和元年度秋季学術研修会にて、「母体保護法に関する法的諸問題」の研修講師を担当しました。
具体的には、次の事項などを解説しました。
- 母体保護法第14条とは
- 母体保護法第14条の刑事上の意義
- 本人及び配偶者の同意~配偶者の同意がない場合~
- 本人及び配偶者の同意が必要
- 配偶者の同意が不要な事例の解説
たくさんの産科医や婦人科医の皆様にご参加いただきました。
研修会を開催した背景と目的
人工妊娠中絶は、患者本人や関係者とのトラブルになりやすい分野です。深刻なトラブルに巻き込まれる可能性も否定できません。
人工妊娠中絶の同意の有無を争われないようにするには、適切な方法で同意を取ることが必要不可欠です。
そこで、人工妊娠中絶における患者及び配偶者の同意(母体保護法14条)を解説する研修会を開催しました。
研修会の内容
1. 母体保護法第14条とは
母体保護法第14条は、第1項で本人及び配偶者の同意があるときは人工妊娠中絶ができることを定めています。
第2項では、次のときは本人だけの同意で人工妊娠中絶ができることを定めています。
① 配偶者が知れないとき
② 配偶者が人工妊娠中絶の意思を表示することができないとき
③ 妊娠後に配偶者がなくなったとき
2. 母体保護法第14条の刑事上の意義
同意を取得することにより、業務上堕胎及び同致死傷罪(刑法第214条)の違法性が阻却されます。つまり、同意があれば犯罪になりません。
3. 母体保護法第14条の民事上の意義
同意を取得することにより、不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)になりません。つまり、同意があれば損害賠償請求されません。
4. 本人及び配偶者の同意が必要
人工妊娠中絶には本人及び配偶者の2名の同意が原則として必要です。
トラブルを避けるため、可能な限り本人及び配偶者の2名の同意をとることが望ましいでしょう。
5. 配偶者の同意が不要な事例の解説
配偶者の同意がいらないかどうかの判断は難しいです。
重大なトラブルを避けるためには、次のような体制をとることが望ましいでしょう。
① 「配偶者の同意がとれない」と主張する患者から状況を丁寧に聴取し、カルテなどに記載する。
② 典型的な事例はマニュアル化しておく。
③ 弁護士などの専門家に意見照会できる環境を整備する。