- 1. 残業代について
- (1)固定残業代の敗訴事案
まず、残業代の問題として、固定残業代に関する会社の敗訴事例を解説しました。
実際に取り扱った事例をベースに、「弁護士として相談を受けた際に、まず何を確認するか」「固定残業代の有効要件」「なぜこの事案で会社が負けてしまったか」をお話しました。
固定残業代が有効な残業代と認められるためには、①労使間の合意があること、②対価性があること、③明確区分性があること、④公序良俗に反しないこと等が必要と考えられていますが、この事案では、そもそも雇用契約書の記載内容が非常に抽象的で、また賃金規程や給与明細の記載内容とも一致していなかったことから、②③の要件を満たさないと判断されてしまいました。
ここ1年くらいの取扱い案件を振り返っても、特に運送業、飲食業の残業代案件(いずれも会社側)が非常に多かったです。
残業代請求の時効期間が2年から3年に伸び、単純に請求額が1.5倍になったことなども踏まえると、残業代の問題は、企業経営に取り極めて深刻なリスク・問題となっています。
- (2)歩合給が絡む残業代の事案
次に、ここ数年で増えている残業代の問題として、歩合給が絡む残業代の会社の敗訴事例を解説しました。
2020年の3月に出た「国際自動車事件判決」以降、歩合給と残業代が関連する給与体系の有効性が厳しく判断される傾向にあります。
この研修では、「なぜこの事案で会社が負けてしまったか」だけでなく、「国際自動車事件判決の解説」「歩合給の特殊性の問題」「歩合給を含めた給与体系構築時の注意点」などもお話させていただきました。
- 2. 労働者の退職・解雇について
- (1)普通解雇の事案
解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇といった種類がありますが、まずは、普通解雇の会社の敗訴事例を解説しました。特に、「勤務態度不良を理由とする解雇のハードルの高さ」「注意指導を行う際のポイント」などを重点的にお話しました。
また、この事案は労働審判の事案であったため、労働審判の注意点や工夫、解決までの流れについてもお話させていただきました。
- (2)懲戒解雇の事案
次に、懲戒解雇の会社の敗訴事例を解説しました。
懲戒処分を行う場合、「労働者に対するペナルティとして行う解雇」という側面があるため、普通解雇とは異なる目線からの検討が必要になります。
特に、従業員の不正行為(横領・窃盗など)を理由に懲戒解雇を行う場合には、「この従業員が不正行為を行った」という明確な証拠があるかが非常に重要です。
- (3)整理解雇事案
解雇に関するテーマの最後として、コロナ禍で特に増えた、整理解雇の会社の敗訴事例を解説しました。
整理解雇は、労働者の問題行動などが原因ではなく、「会社の経済状況」という会社側の事情に基づく解雇であるため、その有効性は非常に厳しく判断される傾向にあります。ただ、会社側にはそのような意識がないことも多く、「経営不振なら当然に解雇できる」と考えている会社も多いのが現状です。
- 3. ハラスメントについて
- 研修の最後に、ハラスメントと休職・自然退職が絡む、少し複雑な事案についてもお話しました。
特にハラスメント事案では、「ヒアリング」「事実認定」「法的評価」を適切に行う必要性がありますが、これはとても難しいのが現状です。この研修でご紹介させていただいた事案では、最初の「ヒアリング」の時点で失敗してしまったため、会社が敗訴することになってしまいました。