労働事件における手続き選択と労働事件特有の問題点についての研修会講師を担当しました。
千葉地方裁判所は労働事件専門部があり、残業代をはじめとする労働事件が多いです。また、2006年から労働審判という新しい制度が始まりました。
これらの状況を踏まえて、労働審判について詳しく解説しました。そして、どういう場合に訴訟を選択すべきか、どういう場合に労働審判を選択すべきかという解説をしました。
また、裁判と労働審判の手続きはいずれもメリットとデメリットがあります。それぞれの手続きのメリットとデメリットについても詳しい説明をしました。
労働審判という新しい制度への関心が高く、当日は80名程度の弁護士や修習生が参加しました。
研修会を開催した背景と目的
2006年から労働審判という新しい制度ができました。今までは労働問題が生じると、解決するためには、交渉か裁判という方法しかありませんでした。
しかし、双方の主張の隔たりが大きく、交渉(話し合い)で解決できない場合もよくあります。その場合裁判を起こして解決するしか道はありませんでした。
裁判をすると、第1審だけでも平均1年近くかかるなど、解決までに相当長期間を要します。
長期間かかると訴える方にも訴えられる方にもかなりの手間が生じます。
こういった事態を避けるため、簡易迅速な解決を目的として労働審判という制度が生まれました。これにより労働事件は、様々な手続きを選択することができるようになりました。
どの手続きを選択するかは専門的な判断が必要です。そのため、労働審判について解説するとともに、どういう場合にどういう手続きを選択すべきかについて解説することを目的に、本講座を行いました。
研修の内容
1. 労働審判
① 労働審判とは
労働審判とは、解雇や給料の不払など、個々の労働者と事業主との間の労働関係のトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続です。
② 労働審判手続きの特徴
労働審判手続きには、次のような特徴があります。
- 裁判官以外の労働関係の専門家が関与する。
- 回数が3回までと決まっているため迅速な手続になる。
- 事案の実情に即した柔軟な解決ができる。
- 異議申立てによって通常の訴訟へ移行する。
③ 労働審判の内容
実際に代理人として経験した労働審判をもとに、労働審判においてどういうことが行われ、どういう流れで進んでいくのかを解説しました。
労働審判では、3回しか行われない中で決着を図ります。このことから裁判所は、1回目の手続きにおいて大まかな考えを固めるケースが多いです。
そのため労働者側も事業主側も、1回目までに主張や証拠を出し尽くすという意識がとても重要であることを説明しました。
特に事業主側では、労働審判が起こされてから反
論の書面を出すまでの期間が短いです。その中でも、1回目までに最大限主張をし、証拠をもって証明していく必要があります。労働審判には、こういった特有の難しさもあります。
2. 民事訴訟
① 民事訴訟とは
民事訴訟とは、裁判官が、法廷で、双方の言い分を聴いたり、証拠を調べたりして、最終的に判決によって紛争の解決を図る手続です。
② 民事訴訟手続きの特徴
民事訴訟手続きには、次のような特徴があります。
- 裁判官が判断する。
- 解決までの期間は長くなる確率が高い。
- 裁判の途中で話し合いによる解決ができる。
- 最後は判決による強制的な解決ができる。
民事訴訟では、時間をかけて審理することにより、しっかりと判断してもらえる反面、第1審の判決が出るまでに相当長期間を要するという大きなデメリットがあります。
そのため、それぞれの特徴をふまえて、どちらの制度を使うべきであるのかについて解説しました。
3. 制度選択
労働審判は、何と言っても解決までのスピード感が特徴です。そのため、残業代や解雇など、事実関係にそれほど大きな争いがなく、金額や損害額の問題になるケースに適しています。
他方、事実関係に大きな争いがあってしっかりとした事実認定を経た方がいい事案、パワハラ・セクハラなど当事者の証言やその内容が問題になる事案では、労働審判は適しません。こういった場合は、最初から訴訟を選択する方が望ましいことが多いです。