日本医師会認定産業医研修会にて、メンタルヘルスにまつわる訴訟事例の解説をしました。次のような内容等です。
- 産業医に対する訴訟提起の現状
- 損害賠償の基礎知識
- 裁判例の分析
- ストレスチェックと産業医の責任
20名ほどの産業医の先生にご参加いただきました。
研修会を開催した背景と目的
産業医にかかわる法的なトラブルが増えています。裁判のリスクも高まっています。
そこで、産業医の先生が本来の業務に集中し、会社や社員のために力を発揮していただきたいという想いで本研修会を開催しました。
質疑応答では実務に即した質問が多く出て、皆様の問題意識の高さを改めて実感しました。
研修会の内容
1. 産業医に対する訴訟提起の現状
近年、産業医を被告とする裁判は増えています。また、ストレスチェックの実施者になった産業医に対する裁判が増える可能性もあります。
そして、裁判に巻き込まれると、次のような負担が生じてしまうことを解説しました。
① (裁判に負けたときは)損害賠償をしなくてはいけない。
② 裁判所に行ったり、弁護士と打ち合わせをしたりなど、時間がかかってしまう。
③ 裁判をしていること自体が精神的なストレスになる。
2. 損害賠償の基礎知識
債務不履行による損害賠償請求(民法第415条)や不法行為による損害賠償請求(民法第709条) のルールを解説しました。
3. 裁判例の分析
次の3つの裁判例を解説しました。
① 自律神経失調症で休職中の社員との面談における産業医の言動が、社員に対する不法行為を構成し、これにより社員の症状を悪化させたとして損害賠償請求をした事例(請求一部認容)(大阪地方裁判所平成23年10月25日判決)
② 休職期間満了による自然退職の処理に対して、社員が業務上の傷病であることを理由として従業員の地位の確認や損害賠償等をした事例(請求棄却)(東京地方裁判所平成24年8月21日判決)
③ 異動の内示を受けた社員が欠勤を開始したため、会社が欠勤開始後約1年4か月後に休職命令を発し、休職期間満了となるその1年後に退職を通知した。主治医と産業医の意見が異なる事案において、社員が会社に対して休職命令と退職処理の流れが違法であるとして従業員の地位の確認や損害賠償請求等をした事例(請求棄却)(東京地方裁判所平成23年2月25日判決)
4. ストレスチェックと産業医の責任
厚生労働省のストレスチェック制度関係Q&Aを元にして、ストレスチェックに関して産業医が注意すべきポイントを解説しました。