千葉県行政書士会東葛支部所属の行政書士の先生30名を対象とした相続業務研究会で研修講師を担当しました。
「相続実務の諸問題」というテーマで、遺産分割調停・審判の実務のお話をしました。
具体的には、行政書士の皆様に知っておいていただきたい、次のような相続実務の問題を解説しました。
1. 相続問題の現状
司法統計のデータから分かる現状
2. 遺産分割調停・審判の基礎知識
① 遺産分割調停・審判とは
② 遺産分割調停の流れ
③ 遺産分割調停の終了
④ 遺産分割審判の注意点
3. 相続法の改正
① 改正の経緯・施行時期
② 改正の内容
4. “争続”にならないために
① もめる“争続”の典型例
② 遺言書について
5. 相続業務と非弁行為
セミナーを開催した背景と目的
相続の案件等をご紹介いただいている行政書士の先生から次のような話がありました。
- 相続の問題で紛争化した場合には弁護士にお願いすることになる。
- 実際に遺産分割調停・審判で何をしているのかのイメージをつかみたい。
- 遺産分割で実務上どのような点が問題となりやすいか知っておきたい。
遺産分割調停・審判で弁護士が何をしているのかをお伝えすることで、行政書士の先生の業務にも役立つと思い、本セミナーで講師を担当しました。
あわせて、相続業務と非弁行為について知りたいという要望もあったことから、非弁行為について事例を中心に解説しました。
セミナーの内容
1. 相続問題の現状
相続問題は近年増加傾向にあり、今後も更に増加する見込みであることを解説しました。
2. 遺産分割調停・審判の基礎知識
① 遺産分割調停・審判とは
遺産分割調停とは、家庭裁判所で遺産分割の方法を話し合うための手続きです。あくまで話し合いです。
遺産分割審判とは、家庭裁判所の裁判官が遺産分割方法を決定してしまう手続きです。裁判官が強制的に結論を出す手続きです。
遺産分割調停や審判に関連して、次のようなよくある質問も解説しました。
- Q 遺産分割調停では、誰が話を聞いてくれますか?
- A 家事審判官(裁判官)と調停委員で組織される調停委員会が話を聞いてくれます。
- Q 遺産分割調停ではなく、いきなり遺産分割審判を申し立てできますか?
- A できます。ただし、裁判所はいつでも職権で家事調停に付することができます。(家事事件手続法第274条1項)
実務では、調停手続になじまないことが明らかな場合を除き、いきなり遺産分割審判を申し立てても、裁判所は職権で調停に付すことが多いです。
- Q 遺産分割調停はどの裁判所に申し立てればよいですか?
- A 相手方の住所地または当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てる必要があります。
② 遺産分割調停の流れ
遺産分割調停では次のような順番で話が進んでいくことを解説しました。
- 誰が相続人であるかを確認する。
- 遺産として何があるかを確認する。
- 不動産などの遺産をいくらと評価するかを確認する。
- 特別受益や寄与分など、法定相続分を修正する事実を確認する。
- 遺産をどのように分けるかを確認する。
また、遺産分割調停の流れに関連して、次のようなよくある質問を解説しました。
- Q 相手が調停に出頭しません。裁判所が強制的に連れて来てくれますか?
- A 裁判所が強制的に連れて来ることはありません。
遺産分割調停はあくまでも話合いの場なので、相手方の出頭が必要です。どうしても相手方が出頭しない場合、調停は終了となります。
- Q 裁判所では、相手方と直接顔を合わせて話し合いをしますか?
- A 裁判所は、当事者同士が直接顔を合わせなくてもいいような配慮をしています。具体的には、申立人と相手方が別室で待機し、順番に調停委員のいる部屋に呼ばれて、それぞれ話をすることが多いです。
- Q 遺産を隠している疑いのある相続人がいます。家庭裁判所は調べてくれますか?
- A 家庭裁判所が自ら調べてくれることはありません。
もちろん、裁判所が次のように扱うことはあります。
- 遺産の内容に関して当事者から意見を聞く。
- 必要な資料の提出を当事者に促す。
しかし、必要な資料の提出は原則として当事者が行います。
- Q 調停で話がまとまらない場合はどうなりますか?
- A 調停は不成立として終了します。
その後、引き続き審判手続で必要な審理が行われた上、審判によって強制的な結論が出ます。
③ 遺産分割調停の終了
遺産分割調停で話し合いがまとまれば無事に終了することや、話し合いがまとまらない場合には原則として遺産分割審判の手続きに進むことを解説しました。
また、遺産分割調停の終了に関連して、次のようなよくある質問を解説しました。
- Q 調停は、どのくらいの回数・期間で終わりますか?
- A 6か月から1年位で終わることが一番多いです。
- Q 調停が長引く原因にはどのようなものがありますか?
- A 生前の預貯金の引き出しの問題や特別受益の問題があるときは長引く傾向にあります。
④ 遺産分割審判の注意点
遺産分割審判は強制的な決定であること、不服があるときは2週間以内に即時抗告という不服申立てを行う必要があることを解説しました。
3. 相続法の改正
① 改正の経緯・施行時期
2019年から2020年にかけて相続法の改正法が施行される予定であることを解説しました。
② 改正の内容
次のような法改正があることを解説しました。
- 配偶者居住権の新設
- 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
- 預貯金の払戻し制度の創設
- 自筆証書遺言の方式緩和
- 法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設について
- 遺留分制度の見直し
- 特別の寄与の制度の創設
4. “争続”にならないために
① もめる“争続”の典型例
もめる“争続”の典型例として、次のような事例を解説しました。
- 夫婦に子供がいなくて、兄弟が相続に関わるパターン
- 遺産のほとんどが不動産のパターン
- 特定の人だけが故人の介護をしていたパターン
② 遺言書について
もめる“争続”にしないためには遺言書の作成がよいことや、遺言書は公正証書遺言で作成するのがおすすめであることを解説しました。
5. 相続業務と非弁行為
①弁護士以外の人が②報酬を得る目的で③法律事件に関して④業として⑤法律事務を取り扱ったりしたときは、非弁行為として刑事罰の対象となることなどを解説しました。(弁護士法第72条)
あわせて、非弁行為の指摘があった過去の事例を解説しました。