ティーエッセンス事件(東京地方裁判所令和7年10月30日判決)を題材として、シフトからの排除とパワハラについてご紹介しました。
講師は使用者側の労務分野に注力している弁護士の鎌田大将が担当しました。
セミナーを開催した背景と目的
ティーエッセンス事件では、シフト制で働くアルバイト従業員に対するシフトからの排除や、店長によるパワハラ発言、さらには解雇の有効性が問われました。
現代の労務管理において非常に参考になる近時の判例であるため、本判例を解説するセミナーを開催いたしました。
セミナーの内容
事案の概要、本件の争点、裁判所の判断、この判例から学ぶべきことの4点を解説しました。
1. 事案の概要
原告は、被告が経営する飲食店で、シフト制のアルバイトとして勤務していた従業員です。原告は社会保険に加入できることを前提に雇用されました。しかし、働き始めてから数か月の間に、体調不良を理由とした欠勤や早退を何度か繰り返してしまいました。
その後、原告は店長と面談を行ったのですが、これがトラブルの決定的な引き金となりました。店長は原告が風邪薬のカロナールを飲んでいることに対して、治す気がないように思えるなどと独自の見解を述べました。
さらに店長は、進めていた原告の社会保険加入手続きについても、「一旦保留にさせて」と告げ、一方的に手続きをストップしてしまいました。そしてこの面談以降、原告がシフト希望を提出し続けても、店長は意図的に原告のシフト勤務日を一切指定しなくなりました。
これに危機感を覚えた原告は弁護士に依頼し、会社に対して改善を求める通知書を送付しました。しかし、これを受けた店長は、会社の指示のもと、店舗のシフトを共有する業務用のグループLINEから原告を強制的に退会させました。
さらに店長は、他の従業員たちに対して「原告が訴えてきた」などと不正確な内容を吹聴しました。原告は労働審判を申し立てましたが、その後会社は原告を解雇しました。
2. 本件の4つの争点
この事件が裁判に発展し、主に4つの点が争われました。
① シフト制で働く原告に、最低労働時間数の合意があるのか?
② 店長がシフトを入れなかったことが会社の責任となり、未払賃金が発生するのか?
③ 会社が行った解雇が有効か?
④ 店長の一連の行為がパワハラとして損害賠償の対象になるか?
3. 裁判所の判断
① シフト制で働く原告に、最低労働時間数の合意があるのか?
当事者間で「週20時間以上」の最低労働時間の合意があったと認定されました。

② 店長がシフトを入れなかったことが会社の責任となり、未払賃金が発生するのか?
就労できなかったのは「会社の責任」であり、未払賃金請求を認めると判断されました。

③ 会社が行った解雇が有効か?
客観的に合理的理由がなく社会通念上も相当とはいえないため、解雇権の濫用により「無効」と判断されました。

④ 店長の一連の行為がパワハラとして損害賠償の対象になるか?
店長の行為は違法なパワハラと認定されました。その結果、使用者責任に基づき、裁判所は、会社に対して慰謝料10万円の支払いを命じました。

4. この判例から学ぶべきこと
この判例から学ぶべきことは次のとおりです。
① シフトから排除する行為のリスク
契約書にシフト日数が書かれていなくても、本件のように「社会保険の加入前提」などの実態から「最低労働時間の合意」が認定されることがあります。
制裁的にシフトを入れないなど、シフト決定権限の濫用は未払賃金を発生させるリスクが高いことを認識しておかなければなりません。
② 出勤の強要のリスク
いくら欠勤されると困るからといって、店長が持論を押し付けて無理な出勤を強要することはパワハラとなりえます。
弁護士から通知が来た途端にグループLINEから退会させたり、周囲に言いふらしたりする感情的な行動は、会社側の「受領拒絶(会社側が正当な理由なく就労を拒むこと)」や「パワハラ」の証拠として認定されてしまいます。
5. 最後に
よつば総合法律事務所では、企業法務の研修・セミナー講師を多く担当しております。企業法務でお困りの際はぜひ一度お問い合わせください。