千葉県社会保険労務士会千葉支部様よりお声がけいただき、残業代に関する研修講師を担当しました。2019年より毎年講師をご依頼いただいており、今年で5年目となります。
残業代の基本的なルールから、実務上の留意点、裁判例も含め、残業代のすべてを2時間でお話しました。
100名を超える社会保険労務士の先生方にご参加いただきました。ご参加いただいた先生方、ありがとうございました。
セミナーを開催した背景と目的
近年の法改正もあり、「未払残業代のリスク」が企業に及ぼす影響は更に大きくなっています。特に、時効期間の延長(2年→3年)の影響は顕著で、単純計算で、法改正前と比べると、1.5倍の残業代請求を受ける可能性があります。
しかし、残念ながら企業が「負けて」しまう残業代事案は非常に多いです。それは、①企業が残業代に関する法律・ルール・裁判所の考えをよく知らない、②残業代に関する裁判所の「考え」が変わったことなどが理由です。
日々、労務管理の専門家として企業に接している社会保険労務士の先生にとっても、「企業の残業代リスクをいかに減らすことができるか」はとても重要です。
このような問題意識から、講師のオファーをいただいた際に、「基礎から応用まで、残業代問題のすべてが分かる研修をしたい」と考え、表題のテーマで研修を行いました。
レジュメの総ページ数は80頁、研修内で紹介した裁判例は29と、かなりの超大作の研修となりました。
今回の研修が、ご参加いただいた社会保険労務士の先生方や、その関与先企業にとって少しでも有益なものとなりましたら、大変幸いです。
セミナーの内容
1. 残業代で負けるとどうなるのか
① 残業代請求事件で会社が負けたときの具体例
実際に担当した事例を踏まえ、「残業代請求の事案で負けた場合の会社のリスク」を解説しました。
ここでいう「負ける」とは、会社が最大限負けた場合、すなわち「敗訴判決を貰った場合」を意味します。
敗訴判決の場合、大半の事案で付加金(賃金を支払っていないことのペナルティ)と、相応の遅延損害金(退職後は年14.6%)の支払が命じられることとなります。
たとえば、「残業代の未払額は500万円」と判断された場合、付加金・遅延損害金も併せると、総額1000万円以上の支払が判決で命じられるケースも非常に多いです。
このような問題もあり、残業代請求の事案で、「判決」を貰うことは非常にリスクがあるという話をしました。
② 最近の残業代請求事件の傾向
ここ最近の残業代請求事件の「雑感」として、次のような点を実体験を交えながらお話しました。
- 相変わらず請求件数は多く、弁護士に依頼するハードルもほぼないこと
- 固定残業代、管理監督者、歩合給に関連する紛争が大半であること
- 運送業、飲食業が特に多いこと
- 時効延長の影響が大きく出ており、1労働者当たり1000万円を超える請求も珍しくないこと
- 変な辞め方(辞めさせ方)をすると、残業代請求のリスクが高まること
2. 「負ける」残業代のお話
未払残業代は、基本的には、「①賃金単価×②時間外労働時間×③割増率-④既払残業代」という計算式で求められます。このうち、③以外については、それぞれで「負ける」ポイントがあります。各項目につき、注意点をお話しました。
① 賃金単価について
賃金単価については、「法律の理解不足」により、誤った単価で残業代を計算してしまっているケースが多いです。
よくある間違いとして、以下の2つを説明しました。
- 本来基礎賃金に含めるべき手当を、基礎賃金に含めていない(「分子」が間違っている)
- 本来の月所定労働時間よりも長い時間で、賃金単価を計算している(「分母」が間違っている)
② 時間外労働時間(実労働時間)について
争いになるパターンごとに、基本的なルールや裁判所の考え、注意点を解説しました。具体的には次のとおりです。
- 通勤時間、移動時間
- 準備時間、早出時間
- 残業許可制、承認制、残業禁止
- 持ち帰り残業
- 休憩時間、待機時間、手待時間
- 不活動仮眠時間、オンコール対応
- 労働時間制度に関する争い(変形労働時間制、管理監督者など)
3. 既払残業代について
特に問題になることの多い固定残業代を中心に、基本的なルールや裁判所の考え、注意点を解説しました。
社会保険労務士の先生にも関連する問題として、「雇用契約書・就業規則(賃金規程)、給与明細の記載内容を一致することの重要性」「就業規則を周知することの重要性」も解説しました。