千葉県社会保険労務士会東葛支部の研修として、社会保険労務士の先生方数名と一緒に、直近1年程度の人事労務に関する重要判例を解説しました。
労働分野は、過去の裁判所の判断が重要な分野です。よつば総合法律事務所では、労働事件専門の判例雑誌の定期購読や所内勉強会を定期開催するなど、情報の収集や研鑽を積んでいます。
今回の解説では、パワーハラスメントや内部通報対応が問題になった、サントリーホールディングス他事件(東京高等裁判所平成27年1月28日判決)を担当しました。
1 事案の概要
上司の部下に対する言動と、言動を労働者が内部通報した際の会社担当者の対応が問題となった事案です。概要は次のとおりです。
①労働者(部下)の業務について不備が多くみられ、他部署からも改善要求があるような状況だった。そのため、上司は労働者に対して繰り返し改善指導を行っていた。しかし、なかなか改善が見られず、労働者が指示に従わないこともあった。
②一連の経緯の中で、労働者はうつ病と診断された。医師のカルテには、労働者が医師へ次のようなことを話した旨の記載があった。
- 上司が労働者に対し「新入社員以下だ。もう任せられない。」と発言をしたこと
- 業務の期限徒過に対する強い叱責があったこと
- 「何で分からない。お前は馬鹿」などと上司が誰にでも発言する人物であったこと
- 上司の発言の存否等も争点になっていますが、紙面の関係上割愛します。
③労働者は上司に対して休職申出をした。しかし、上司は「近いうちに異動で他の部署に行く話がある。休職ではなく有休を使わないと,その話を白紙にしてまた私の下で働くことになる。」との発言をした。
④労働者は上司の提案に従いその後異動したが、体調回復せず休職となった。労働者は、復職後、上司の言動をパワハラ行為として内部通報した。
⑤内部通報担当者は、労働者との複数回の面談やメールでのやりとり、当時上司の部下だった他の従業員への調査などを実施した。調査の際、上司の労働者に対する指導について、行き過ぎた面を証言する者もいた。
⑥担当者は労働者に対し、調査結果を伝え、パワハラに該当するかどうかの判断は難しく、労働者が望むような処分を上司にすることは難しいと口頭で説明した。
⑦担当者から上司に対し、労働者への指導が行き過ぎであるとの指導がなされた。
⑧労働者は、以下の2点が違法であると主張した。
- 各上司の言動
- 担当者の各対応(調査内容、労働者への対応、労働者の求めにもかかわらず、書面で調査結果や判断過程等を開示しなかったことなど
2 争点と裁判所の判断
裁判所の判断の概要は次のとおりです。
- ①労働者に対する上司の各言動について
- ・注意指導として許容される限度を超えた相当性を欠くもの、または休職の申し出に対して配慮を欠くものとして、いずれも不法行為に該当する。
- ②調査対応について
- ・適切な調査を行ったといえるので違法性はない。また,調査結果や判断過程等を文書で開示しなかったことも合理性のある対応で違法性はない。
3 その他
控訴もなされましたが、控訴審でも違法の判断は維持され、慰謝料を減額したにとどまりました。慰謝料を減額した理由の概要は次のとおりです。
- 上司の言動は悪質性が高いとまではいえない
- 本人の精神的不調の継続は本人自身の素因も寄与している。
4 裁判例から学ぶ注意点
今回はパワハラだけではなく、内部通報における調査対応も問題になりました。結論として違法性はないと裁判所は判断しています。そのため、会社が同様の水準で調査をすれば、事後的に調査が問題となるリスクを減らすことができるでしょう。