近時の人事労務に関する重要判例解説

開催日時:
2016年10月22日
セミナー分類:
企業法務
主催:
千葉県社会保険労務士会東葛支部
講師:
三井 伸容 三井 伸容のプロフィール
千葉県社会保険労務士会の先生方

近時の人事労務に関する重要判例解説

セミナー報告

千葉県社会保険労務士会の10月例会前研修にて、社会保険労務士の先生方数名と一緒に、近時の人事労務に関わる重要判例の解説をしました。内容は社会保険労務士の先生方向けの専門的な内容で、弁護士三井伸容は西日本鉄道事件(福岡高等裁判所平成27年1月15日判決)を担当いたしました。
概要は次のとおりです。

1 事案の概要

職種をバス運転士に限定する労働契約を締結していた労働者に対して、バス運転士以外の職種での勤務を命ずる辞令が発せられたことから、労働者が退職し、職種変更の有効性を争った事案です。

2 主な争点

職種限定の合意がある場合の職種変更の可否、具体的には労働者の職種変更に関する同意の有効性が問題になりました。

3 裁判所の判断

裁判所は「労働者の職種変更に係る同意は、労働者の任意(自由意思)によるものであることを要し、任意性の有無を判断するに当たっては、職種変更に至る事情及びその後の経緯、すなわち、(ア)労働者が自発的に職種変更を申し出たのか、それとも使用者の働き掛けにより不本意ながら同意したのか、また、(イ)後者の場合には、労働者が当該職種に留まることが客観的に困難な状況であったのかなど、当該労働者が職種変更に同意する合理性の有無、さらに、(ウ)職種変更後の状況等を総合考慮して慎重に判断すべきものであると解される。」としました。

そのうえで、結論としては、本件の経緯に照らして労働者の任意によるものであると判断しました。

4 法律知識の確認

(1) 配転命令の有効性の解説
・ 労働契約において職種や勤務地の限定がある場合
・ 上記限定がない場合
(2) 労働者に不利益な条件変更において、本判決と同様の判断枠組みをとる判決の紹介
・賃金(退職金)債権放棄に関するシンガー・ソーイング・メシーン事件(最高裁判所昭和48年1月19日判決)
・賃金(退職金)債権と会社が労働者に対して有する債権の相殺に関する日新製鋼事件(最高裁判所平成2年11月26日判決)
・妊娠契機の降格に関する広島中央保健生活共同組合事件(最高裁判所平成26年10月23日判決)
(3) その他本判決の事案に関連する問題点の解説
・「退職強要」について

・在職中から労働者が弁護士に依頼する案件について

本セミナーに関連する質問と回答

Q 労働者に不利益がある条件変更の場合に、書面で同意を取るだけではだめですか?
A 事案によりますが、書面の取得だけでは足りないことがあります。
不利益に変更される労働条件によっては、労働者の同意が形式的に存在するだけでは足りません。
「その同意が任意(自由意思)によるものであることの合理的理由が客観的に存在すること」が必要で非常に難解な言葉づかいではありますが「合理的理由」「客観的に存在」という言葉が重要です。

要するに、第三者が客観的に当時の状況をみたときに「労働者が自分の意思で同意をしたのだ」と納得できる根拠が求められているということです。
背景には、会社と労働者では、会社側の立場が強く、労働者は同意を拒否がしづらいという考えがあります。

Q 労働者に不利益がある条件変更について、どのようなケースが問題になりやすいですか?
A 問題になりやすいのは次のような事案です。

  • ①賃金や退職金の放棄
  • ②賃金や退職金を他の債権と相殺する合意
  • ③残業代請求権の放棄
  • ④妊娠・出産・育児休業の取得を契機とした降格処分の同意
Q 労働者に不利益がある条件変更について、具体的にどう対応すればよいですか?
A 合理的理由が「客観的」に存在しなければなりません。したがって、労働者にもたらされる不利益の内容、程度、同意がなされた経緯とその証拠化が重要です。
例えば、次のような内容を証拠化しておきましょう。

  • ①条件変更に関して丁寧な説明がなされたこと
  • ②一見不利益にみえても実は労働者に同意するメリットがあること
  • ③労働者が自由意思で同意するのも自然といえる経緯があること

参考リンク