近時の人事労務に関する重要判例解説等

開催日時:
2015年11月14日
セミナー分類:
企業法務
主催:
千葉県社会保険労務士会東葛支部
講師:
三井 伸容 三井 伸容のプロフィール
千葉県社会保険労務士会の先生方

近時の人事労務に関する重要判例解説等

セミナー報告

特定社会保険労務士の先生向けの勉強会と意見交換会に参加しました。勉強会のパートでは、他の社会保険労務士の先生方数名と一緒に、直近1年程度の人事労務の重要判例の解説を担当しました。

近時注目のハラスメントやメンタルヘルス関連の裁判例を中心に取り上げました。

1 東レエンタープライズ事件(東京高等裁判所平成25年12月20日判決)
セクハラを認知した派遣元が派遣先への働きかけなどを怠ったとして、セクハラ被害者が派遣元を訴えた事案です。

加害者や派遣先ではなく、派遣元の責任が追及された点が特徴です。

結果として、セクハラを事前に防止する策はある程度尽くしているが、実際にセクハラの端緒を認知した後に派遣元が適切に対処しなかったとして派遣元の責任を肯定しました。派遣元責任者がセクハラの申告を派遣労働者から受けていたにもかかわらず、自ら調査を含めた適切な対応をしなかった点などが理由です。

2 アークレイファクトリー事件(大阪高等裁判所平成25年10月9日判決)
派遣先でパワハラを受けたことが原因で退職せざるを得なくなったとして、従業員が派遣先の会社を訴えた事案です。

派遣先会社従業員がパワハラを行ったことにつき、派遣先会社に使用者責任があることを認めました。他方、使用者責任と別の同社自身の不法行為責任は認めませんでした。

3 岡山県貨物運送事件(仙台高等裁判所平成26年6月27日判決)
パワハラと長時間労働により精神障害を発症して自殺に至ったとして、会社と上司に対して損害賠償を求めた事案です。

自殺前の3か月は月130時間近い長時間労働でした。労働時間だけでも労災と判断され、かつ会社の安全配慮義務違反が肯定される可能性が高い事案です。1審では上司の責任は否定されましたがたが、控訴審では上司の責任が肯定されましたた。

小規模の会社代表者や、直属の上司が訴えられるケースは最近増加傾向です。

4 横河電気うつ病事件(東京高等裁判所平成25年11月27日判決)
パワハラと長時間労働によってうつ病を発症して休職し、その後休職期間の満了により退職を余儀なくされたとして、会社と上司を訴えた事案です。

上司の発言が人格非難や名誉棄損に及ぶものではなく、業務上の指示・指導の範囲を逸脱したものとはいえないとしていわゆるパワハラを否定しました。

5 メイコウアドヴァンス事件(名古屋地方裁判所平成26年1月15日判決)
会社役員の暴言、暴行等のパワハラによって精神障害を発症し自殺に至ったものと訴えた事案です。

会社法第350条に基づき会社の責任を認めました。

6 大裕事件(大阪地方裁判所平成26年4月11日判決)
上司によるパワハラによって精神障害を発症した被害者女性が、会社に私傷病扱いされ休職期間満了後に自然退職とされたため、地位確認や損害賠償等を求めた事案です。

訴えに先だっての労災申請は不支給決定でした。しかし、訴訟ではパワハラと疾病との間の因果関係を認めました。

7 公立八鹿病院組合事件(広島高等裁判所松江支部平成27年3月18日判決)
整形外科医が長時間労働及び上司のパワハラによって精神障害を発症して自殺したとして、病院を運営する組合や上司等に対して損害賠償を請求した事案です。自殺は赴任後2カ月でした。

発症までの期間が短い場合、上司や使用者の予見可能性が問題となることが多いです。本件は業務の過重性等の事情から責任を肯定しました。

8 社会医療法人甲会事件(福岡高等裁判所平成27年1月29日判決)
大学病院の検査でHIVのり患が判明した看護師について、情報を取得した医師が原告の同意なく他の職員らに伝達して情報を共有しました。プライバシー権侵害であると共に、HIV感染を理由に原告の就労を制限したことが不法行為となった事案です。

過去の裁判例において、採用時の調査としてHIVやB型肝炎の検査が問題となることはありました。雇用後の感染情報の取り扱いが問題である点と就業場所が医療機関という点が本件の特徴です。