労働者派遣法改正の留意点及び近時の労働事件重要判例解説

開催日時:
2015年11月18日
セミナー分類:
企業法務
主催:
千葉県社会保険労務士会東葛支部自主研究会の先生方
講師:
三井 伸容 三井 伸容のプロフィール

労働者派遣法改正の留意点及び近時の労働事件重要判例解説

セミナー報告

有志で社会保険労務士が行っている勉強会にて、労働者派遣法に関する解説を行いました。また最新判例のご紹介と解説も行いました。

1 労働者派遣法改正の留意点
⑴ 労働者派遣事業の許可制への一本化
⑵ 労働者派遣の期間制限の見直し
⑶ 派遣労働者へのキャリアアップ措置
⑷ 派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇の推進
⑸ 労働契約申し込みみなし制度

2 重要判例解説
(1)学校法人専修大学事件(最高裁判所平成27年6月8日裁判決)
療養補償給付を受ける労働者に対する打切補償を支払っての解雇と労働基準法第19条の解雇制限との関係に関する判決です。

本判決は、業務上の疾病(頸肩腕症候群)により長期休業していた労働者が労災保険法の療養補償給付を受けていたところ、それに対して使用者が休職期間満了後に打切補償を支払って行った解雇の有効性が争われた事案の最高裁判決です。

最高裁は、労災保険法の療養補償給付を受けている労働者であっても労働基準法第81条の打切補償の支給を受けた場合には、使用者自らの負担で災害補償が行われた場合と同様、解雇制限の適用を受けないと判断しています。

参考条文 労働基準法

(解雇制限)
第19条 
①使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

(打切補償)
第81条 第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい

(2)C生協病院事件(最高裁判所平成26年10月23日判決)

1事案の概要
病院で理学療法士として勤務していた労働者(当時副主任)が第2子妊娠に伴い労働基準法第65条3項に基づく軽易業務転換を希望したところ、異動とそれに伴い副主任を免じられたこと(措置1)及び育休復帰後、他の副主任が既にいたため副主任に任じられなかったこと(措置2)について、その有効性が問題になりました。

2裁判所の判断
一審と二審は、本件各措置は生協の人事権の裁量の範囲内のものとして有効としました。
しかし、最高裁は、概要以下のように述べて再度審理を尽くすよう判決を破棄差し戻ししました。
男女雇用機会均等法第9条3項は強行規定。女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法・無効である。

・女性労働者につき妊娠中の経緯業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は原則として上記不利益な取扱いに当たる。

・ただし、以下の場合は例外的に許される。
①軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響等に照らして当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき

②事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度等に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき

参考条文 労働基準法
(産前産後)
第65条 
①使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
② 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③ 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

参考条文 男女雇用機会均等法
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第9条 
①事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
②事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
④妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。