内容
「交通事故と労災の密な関係」というテーマで、労災の概要と交通事故との関係を解説しました。
約40名の保険代理店関係者の皆様にご参加いただきました。
概要
- 労働者災害補償保険制度(労災)とは
- 労災の一般論と使用者側の注意点
- 交通事故の場合の労災の注意点
- まとめ
1.労働者災害補償保険制度(労災)とは
労働者災害補償保険制度が、「労働者災害補償保険法に基づき、労働者が仕事または通勤が原因で負傷した場合等に、その労働者を保護するために必要な保険給付(補償)を行う制度」であることを解説しました。
労働者を雇っている全ての事業主は加入義務があること、適用対象が大きく業務災害と通勤災害の2つに分かれることも解説しました。
2.労災の一般論と使用者側の注意点
業務災害を取り上げながら、労災の一般論と使用者側の注意点を解説しました。
(ア)業務災害
業務災害とは、業務が原因となって生じた労働者の傷病等です。業務災害によって休業している間と、休業から復帰した後30日間は解雇ができません。
業務災害となるには、業務遂行性と、業務起因性が必要です。
業務遂行性とは事業主の支配下にある状態のことです。業務起因性とは事業主の支配下になることに伴う危険が現実化したものと認められる状態のことです。
業務遂行性と業務起因性の判断は難しいので専門家に相談しましょう。
(イ)補償内容
労災の補償内容は次のとおりです。
①療養(補償)給付
②休業(補償)給付
③傷病(補償)給付
④障害(補償)給付
⑤介護(補償)給付
⑥遺族(補償)給付
⑦葬祭料(葬祭給付)
※「補償」とつくのが業務災害の場合の呼び方、つかないのが通勤災害の場合の呼び方です。呼び方が違うだけで内容は同じです。
(ウ)特別支給金
労災を使うと、特別支給金が支給されます。
たとえば、休業損害が、休業給付6割+会社からの損害賠償4割で10割分カバーされていたとしても、追加で休業損害の特別支給金2割をもらうことができます。
(エ)国からの労災補償と会社への損害賠償請求の関係
国から労災給付があると、会社の損害賠償責任の金額が原則減ります。逆に言えば、労災で補償がない慰謝料等は会社が負担しなければならない可能性があります。
(オ)労災利用の会社のメリット・デメリット・注意点
①メリット
国から労災給付があると、会社の損害賠償責任の金額が原則減ります。
②デメリット
次のようなデメリットがあります。
- 労災認定された従業員に解雇制限がかかります
- 労災保険料が上がる可能性があります
- 労災をきっかけに、労働安全衛生法違反による刑事罰の可能性があります
- 業種により行政処分の対象になることがあります
③労災の注意点
会社には労災事故が発生したときの死傷病報告の義務があります。報告をしない労災隠しは避けなければなりません。
労災隠しは企業名公表によるイメージの悪化や刑事罰の可能性が高まります。労災隠しは、労働者の感情を害し、労働者との交渉が困難になることがあります。
また、労災による補償がない慰謝料は会社が支払義務を負うことがあることも注意点です。「民間の労災上積み保険へ加入しましょう」と保険加入をおすすめしていただくのがよいことを解説しました。
また、労災上積み保険をおすすめするポイントは以下が挙げられます。
- 労災認定に関係なく支給される保険や、労災認定だけで支給される保険であれば支払を早期に検討できて安心。
- 労災上積み保険は、保険料を損金算入可能。
- 近年は夏場の熱中症による労働災害も増えている。安全配慮義務違反があると慰謝料等を請求される可能性があること
- 消化器系疾患で労災認定がなされる事案もある。今後消化器系疾患の認定基準が設けられる可能性もあり、認定されるケースが増えていくかもしれないこと
3.交通事故の場合の労災の注意点
通勤災害を取り上げながら、交通事故と労災の関係を解説しました。
(ア)通勤災害
通勤災害とは、通勤時に生じた労働者の傷病等のことです。業務災害と異なり、解雇制限はありません。
通勤災害は会社に死傷病報告義務がありません。労災を使うかは労働者次第です。
(イ)通勤災害の要件
通勤災害の要件について、よく問題となる以下のものを取り上げました。通勤災害の判断は難しいので専門家に相談しましょう。
①「通勤による」とは
通勤のせいで、といえて初めて通勤災害と認められます。
②「就業に関し」とは
往復行為が業務に就くためまたは業務を終えたことにより行われるものであることを指します。
③「住居」とは
労働者が居住して日常生活の用に供している家屋などの場所であって、本人の就業ための拠点となるところを指します。
④「就業の場所」とは
業務を開始し、又は終了する場所を指します。
⑤「合理的な経路及び方法」とは
当該住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等を指します。
⑥「逸脱・中断」とは
合理的な経路及び方法からの逸脱・中断があった場合は、その間及びその後の移動中の災害は通勤災害と認められません。
⑦「日常生活上必要な行為」とは
日常生活に必要な行為で逸脱・中断した場合であれば、その逸脱・中断の間を除き、通勤災害と認められる可能性があります。
(ウ)交通事故で労災を使うことのメリット・デメリット・注意点
①メリット
- 加害者無保険や加害者不明の場合も治療費を自己負担しなくてすみます。
- 加害者任意保険会社の一括対応より長く通院できることが多いです。
- 休業損害等の特別給付金がもらえます。
- 後遺障害の補償が手厚いです。
- 被害者に過失がある場合、労災を使うと獲得金額が増えることがあります。
②デメリット
手続きが複雑です。
勤務先を通じて申請したり、直接労働基準監督署に申請したりすることが必要です。
③注意点
- 労災が「使える」事故では健康保険は使えません。
- 通勤災害は療養休業期間の解雇制限がありません。
- 労災の後遺障害等級認定は裁判であまり重視されません。
- 打ち切りされにくいからと長く通いすぎると、加害者の任意保険会社とのトラブルが発生することがあります。
- 7級以上は労災障害補償年金が支給されます。ただし、加害者から賠償金として逸失利益を受領すると支給調整されます。
2.まとめ
特に覚えていただきたい4点をご紹介してセミナーを終了しました。
①事業者は絶対に労災隠しをしてはいけないこと
②労災上積み保険への加入をおすすめすべきであること
③交通事故で労災を使うメリットが大きいときは労災を使うこと
④交通事故で労災適用の場合は健康保険を使わないこと