相続の分野に興味を持つ異業種の方々が集まる勉強会で、現在(平成29年4月)法制審議会で議論している相続法の改正にまつわるお話をさせていただきました。9名の方々にご参加いただきました。
平成27年4月に、法制審議会(民法相続関係部会)が発表した「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」の内容を説明した上で、パブリックコメントを経て、現時点でどのような議論状況になっているかを解説しました。
その中で、特に①配偶者の居住権を保護するための方策や②配偶者の相続分の見直しについては、参加者の皆様の意見をうかがい、様々な角度から議論しました。
具体的には、次のような内容です。
- 相続法の変遷(大きな改正)
- 改正議論の経緯
- 相続法改正の内容と議論状況
セミナーを開催した背景と目的
相続の分野に興味を持つ異業種の方々が集まる勉強会で、講師の依頼を受けました。
近年、相続に関して昭和55年以来の大改正があるというニュースを耳にする機会が増えました。改正では新しい制度の導入も検討されており、相続実務への影響は大きいです。
そこで、これまでの相続法改正の経緯も踏まえて、相続法改正の議論状況をお伝えしたいと思い、今回のテーマを選びました。
セミナーの内容
1. 相続法の変遷(大きな改正)
(1) 昭和22年改正
(2) 昭和55年改正
- 配偶者の法定相続分が引き上げられました。
- 寄与分制度が新設されました。
- 代襲相続制度、遺産分割の基準、遺留分の見直しが行われました。
(3) 現在検討されている相続法の改正
- 今回の法改正の議論の契機は、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めていた民法第900条第4号ただし書の規定が憲法に違反するとした、平成25年9月の最高裁判所の判断が出たことにあると言われています。
2. 改正議論の経緯
(1) 平成27年4月
法務省が「法制審議会一民法(相続関係)部会」を設置し、相続法改正についての議論を本格的に開始しました。ほぼ月1回のペースで会議が実施されています。
(2) 平成28年6月21日
法制審議会が「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」を決定し、パブリックコメントが行われました。
(3) 今後の予定
法制審議会で「民法(相続関係)等の改正に関する要綱」が作成され、法務大臣に答申されます。
その後、法務省で具体的な条文の作成作業に入ります。法律の条文ができると国会に提出されます。
そして、国会の審議を経て法律が改正され、通常は1~2 年の周知期間をおいて施行されることが多いです。
3. 相続法改正の内容と議論状況
現在検討されている相続法改正は、次の大きな2つの方向性があります。
(1) 生存配偶者を今よりも保護すること
(2) 社会情勢の変化に相続法を対応させること
(1) 生存配偶者を今よりも保護すること
① 配偶者の居住権を保護するための方策
- 短期居住権
相続開始時から遺産分割終了時まで、または比較的短期間、配偶者がその居住建物に無償で居住することを認める制度(使用借権類似の法定債権)を創設する方向で議論が進んでいます。
- 長期居住権
相続開始後も配偶者に対象建物の使用を認める法定の権利(賃貸借権類似の法定債権)を設定し、同人が終身または一定期間居住できるようにするもので、遺産分割、遺言または死因贈与契約で取得し、その財産的価値に相当する金額を相続したものと扱う制度です。
反対意見も多く、現在公表されている制度とは内容が大きく変更されることが予想されます。
② 遺産分割制度に関する見直し
婚姻期間が20 年以上経過後に、当然に配偶者の法定相続分を引き上げる案などが議論されました。
しかし、反対意見も多く、法制審議会は、配偶者の相続分の見直しに関しては断念しました。
(2) 社会情勢の変化に相続法を対応させること
① 預貯金債権の遺産分割制度に関する見直し
- 預貯金債権を遺産分割の対象に含める方向で議論が進んでいます。
② 遺言制度の見直し
- 自筆証書遺言の方式を緩和する方向で議論が進んでいます。不動産や預貯金など財産の特定に関する事項は自筆でなくてもよいという内容です。
- 自筆証書遺言の紛失、隠匿または変造等に対処するために、法務局などの公的機関が遺言を保管する制度を創出する方向で議論が進んでいます。
③ 遺留分制度に関する見直し
- 遺留分減殺請求により物権的効力が生ずる現行の規律を改め、原則として金銭債権が発生する制度に変更する方向で議論が進んでいます。
- 遺留分算定の基礎となる財産に含めるべき生前贈与の範囲について、限定する方向で議論が進んでいます。たとえば、対象となる生前贈与の期間を一定期間に限定するなどの内容です。
④ 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
相続人以外の者が被相続人の療養看護等に努め、その財産の維持増加について特別の寄与をした場合に、相続人に対する金銭支払請求を求めることを認める制度を創設する方向で議論が進んでいます。