地元の社会保険労務士の先生方の研修会にて、近時の労働事件の重要裁判例の解説を担当しました。
当日は三井伸容以外に4名の講師が参加しました。いずれも社会保険労務士の先生です。
三井伸容が担当したのはドリームエクスチェンジ事件とTRUST事件の2つです。
1 ドリームエクスチェンジ事件(東京地方裁判所平成28年12月28日判決)
従業員が業務時間中に行った業務と無関係なチャット時間が労働時間に該当するか問題になった事案です。
まず、従業員は次のチャットを行っていたと裁判所は認定しています。
- 単なるチャットの私的利用にとどまらず、顧客情報の持ち出しを社員に助言するようなやりとりや、経理部長という自らの立場で会社が倒産寸前と述べるなどの信用棄損、他の社員への誹謗中傷や女性社員への性的な誹謗中傷
- チャットの時間は概算で1日300回以上で、時間にして2時間程度
従業員の行為を前提として、懲戒解雇は有効となりました。
しかし、本件チャットを行っていた時間は、次の理由で労働時間と裁判所が認定しました。
2 TRUST事件(東京地方裁判所立川支部平成29年1月31日判決)
妊娠中の退職の合意の有無が問題になった事案です。
裁判所は次の理由から、退職の合意を認めませんでした。
- 退職の合意の有無は、自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する。
- 従業員である原告の退職関連の問い合わせに対し、会社側が明確な説明をしておらず、客観的、具体的な退職手続もなされていない。
- 原告側で復帰可能性のない退職であると理解する契機がなく、当時自由な意思に基づく選択があったとは言い難い。
この裁判例から得られる教訓は、口頭で済ませず合意書を作成すること、退職手続を適正なタイミングで行うことなどです。
また、妊娠や・出産の場面など慎重な配慮をすべき場面や、従業員からみて不利益な合意をする場面等では、丁寧な説明をした上で、説明内容の証拠化がもあわせて重要です。