弁護士向けに、対面・オンラインのハイブリッド形式でセミナーを開催しました。テーマは、近年の改正法によって新設された「所有者不明土地建物管理制度」の解説です。
前半では、制度概要や既存制度との比較、改正の背景・目的、改正のポイント、そして従来制度では解決が困難だった点などを解説しました。
後半の事例報告では、実際に弁護士の川田が対応した事案を題材に、弁護士として申し立てに関与していく際の注意点や実務上の勘所(ポイント)などを解説しました。
セミナーの最後には質疑応答を行い、多くの参加者からご質問をいただき、大変有意義な講演となりました。

セミナーを開催した背景と目的
少子高齢化が加速する日本においては、所有者が判明しなかったり、所在が不明になったりした不動産が放置される問題が増加しています。
新制度への正確な理解と対応
令和5年に施行された「所有者不明土地建物管理制度」は、従来の不在者財産管理制度などと比較して、特定の不動産に限定した効率的な管理が可能です。
本制度を選択肢の1つとするために、制度を適切に把握する必要があります。
複雑化する相続・不動産紛争の解決スキーム
相続人が判明しない、あるいは連絡が取れないといった事案が増えている印象があります。
本制度を選択肢の1つとすることで、解決の選択肢が広がることになります。
セミナーの内容
1. 深刻化する所有者不明土地建物問題
不動産登記簿等の公的記録を参照しても所有者が直ちに判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地は、全国の土地の約22%にもなります。
そのため、令和5年の法改正にて、所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わりました。
2. 既存の財産管理制度
既存の財産管理制度として、次の制度を解説しました。
① 不在者財産管理人
② 相続財産清算人
③ 特別代理人(特定の訴訟行為を行うための代理人)
3. 既存の制度の問題点
既存の制度の問題点として、次のような点を解説しました。
① 「特定の土地だけ売りたい」というニーズにこたえにくい。
② 100万円以上の裁判所に納める費用(予納金)がかかるなど、コストが高い。
③ 共有不動産の場合、共有者ごとに管理人を選任する必要があり現実的ではないことがある。
4. 所有者不明土地等管理制度の概要
所有者不明土地等管理制度は、調査を尽くしても所有者が不明、あるいはその所在が不明な場合に、裁判所が管理人の選任を命じる制度です。
具体的な活用シーンの例は、次のとおりです。
① 隣地の所有者が不明で、境界確定や売却ができない場合
② 所有者不明の土地を含めて開発計画を進める必要がある場合
所有者不明土地等管理制度のメリットは次のとおりです。
① 対象物件以外の財産調査や管理が不要です。管理人の負担が軽いです。
② 不動産を売却して供託するなど管理業務終了時が明確です。最終的な解決が明確です。
③ 管理期間が短く、物件ごとの管理となります。従来の制度より予納金(裁判所の費用)を抑えやすいです。
5. 制度の比較と使い分け
所有者不明土地等管理制度は、管理の対象を特定の不動産に限定できるため、従来の制度に比べて、売却に向けた手続きを効率的に進められるメリットがあります。
6. 具体例の解説
具体例を元にして、次のような点を解説しました。
① 管轄裁判所
② 申立権者(利害関係人の範囲)
③ 不動産所有者の探索の程度
④ 予納金の相場
⑤ 管理人の権限の範囲
⑥ 売買代金(処分価格)の決定方法