過去と他人ではなく自分と未来に焦点を当てる

Vol.40
2012年09月号

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目次
「過去と他人ではなく自分と未来に焦点を当てる」

過去と他人ではなく自分と未来に焦点を当てる

裁判や法律の世界では、ついつい、過去と他人に焦点を当ててしまいます。「あいつがいうことを聞かないから話し合いがまとまらない。」
「あの時にあんなひどいことをしてしまったからトラブルが大きくなってしまった。」
「あの人が約束を守らないからお金が返金されない」
等々。
裁判や法律の世界ではどうしても過去のことや他人のことを問題としがちですが、あえて自分と未来に焦点を当てるということが大切だと感じています。1 相続の場合
例えば、兄弟が3人いて、そのうちの1人がとんでもない要求をしていて全く相続手続が進まない場合です。本来であれば取り分は原則3分の1ですが、1人が半分以上を根拠も全くなく要求しているというようなことはよくあります。

このような場合、ついつい、無理な要求をする相手の非難をエスカレートしがちです。ただ、相手に対する非難をしているうちは他人に焦点を当てているだけで問題は全く解決しません。実は相手が無理な要求をしている場合、話の主導権はこちらにあるのです。
どういうことかといいますと、遺産の半分以上をくれという無理な要求に応じるかどうかは私たちの自由だということです。つまり、相手が何を言ってきても、応じるかどうかはこちらが選択できる、自分たちで自分たちの未来を選べるということです。

具体的には以下のような作戦があります。
・相手が無理なことをいうのであれば、そのまま無視しておいて相手が折れるのを待つ。
・裁判所に申立をすれば強制的に最後は3分の1で分けることができますので裁判所に申立をする。
・(納得はできないけれど)早く問題を解決したいので、3分の1ちょうどの取り分でなくてもよいので取り分についての話し合いで解決をする。

何が言いたいのかと言うと、自分がどういう選択肢が取れるのかということを考えて未来に目を向けると、私たちの側に主導権があることがわかってくるということです。過去と他人にとらわれるのではなく、自分と未来に焦点を併せれば、相続に限らず問題の解決が見えてくることがあります。

2 交通事故の場合
例えば、赤信号で停車中に衝突され、むちうちの症状が出たとします。お医者さんは6ヶ月位の治療が必要だといっていますが、加害者が自分の非を全く認めません。むしろ、「そんなところに止まっていたあなたが悪い」という始末で、保険会社も加害者の主張にのってしまって保険金を支払いません。

このような場合、明らかに相手が悪いですし、また、怪我をして大変な状況に陥ってしまったことも間違いありません。相手を非難したいのは当然ですし相手が社会的に非難されるのも当然です。ただし相手を非難しても問題は解決しません。このような場合にも「自分と未来」に焦点を当てることで解決の道筋が見えてきます。

・まずは治療最優先です。できるだけ事故前の状態に体を戻すことが重要ですので、健康保険を使って3割負担で治療をします。そして、全ての領収書を保管しておきます。
・治らない場合に備えて半年後に後遺障害申請をすることを考え検査・治療方針を決めます。リハビリは診断書を作成する権限がある開業医で行い、半年間で100回位の通院を目標とします。また、MRI、レントゲンを取ると共に、神経に関する検査をできるだけ早い段階で受けておきます。痛み等の症状も正確に医師に告げてカルテに記載をしておいてもらいます。
・半年して治った場合には、今までの治療費を全て保険会社に請求、支払がない場合には裁判で利息も含めて全額回収します。慰謝料も満額回収します。(弁護士費用特約付の自動車保険に加入していれば弁護士費用の負担もありません。)
・治らなかった場合には、後遺障害の申請をします。後遺障害14級が認められた場合には、治った場合に認められる損害に加えて、裁判の標準では後遺障害慰謝料110万円、後遺障害で今後働けなくなる分の損害平均80万円前後が認められます。約200万円弱がもらえるということです。

この場合でも、相手が悪い、相手が悪いといっても問題は何も解決しません。現状を前提に、自分のペースで主導権を握りながら、未来をみすえた行動をとっていくことが重要です。

「ポストが赤いのも自分のせい」という格言があります。自分の責任ではない、自分に関係がないことでも、全て原因は自分にあるということのたとえとして有名です。他人のせいにしても物事は全く解決しません。全てを自分の責任と一度受け入れた上で、自分主導で自分の未来を考えるということが一時的には精神的につらいことですが問題の解決のためには大切だと感じています。

(文責 大澤一郎)