自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか②

最終更新日: 2018年05月02日

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執筆: 弁護士 辻悠祐

【前回の記事はこちら→】自己破産、自動車の引き揚げ要請に応じるべきか①

最高裁判所平成22年6月4日判決

事案の内容としては、

  • 購入者、販売会社、信販会社の三者で、購入者が販売会社から自動車を買い受けるとともに、売買代金から下取車の価格を控除した残額を購入者に代わって販売会社に立替払することを信販会社に委託すること、本件自動車の所有権が購入者に対する債権の担保を目的として留保されることなどを内容とする契約を締結
  • 同契約では、購入者は、本件自動車の登録名義のいかんを問わず(登録名義が販売会社となっている場合を含む。)、販売会社に留保されている本件自動車の所有権が、信販会社が販売会社に本件残代金を立替払することにより信販会社に移転し、購入者が本件立替金等債務を完済するまで信販会社に留保されることを承諾するとの旨の合意もありました。
  • その後、購入者が個人再生による再生手続開始の決定を受けたため、信販会社が自動車の引渡を請求した。

これに対して、裁判所は、以下のように判断しました。

「被上告人は、本件三者契約により、上告人に対して本件残代金相当額にとどまらず手数料額をも含む本件立替金等債権を取得するところ、同契約においては・・・被上告人が販売会社から移転を受けて留保する所有権が、本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。」
「再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照)、本件自動車につき、再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていない限り、販売会社を所有者とする登録がされていても、被上告人が、本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。」

この判決のポイントは、以下の通りです。

  • 被担保債権の範囲について、
    本件のような契約では、信販会社が販売会社から移転を受けて留保する所有権は、残代金相当額のみならず、手数料額をも含む本件立替金等債権を担保していること。
  • 信販会社の名義での登録の要否について、
    自動車につき、再生手続開始の時点で信販会社を所有者とする登録がされていない限り、販売会社を所有者とする登録がされていても、信販会社は別除権を行使できないこと。

これは、再生手続の事案ですが、破産手続の場合も同様に考えられます(対応する規定としては、破産法49条2項)。裁判所は、信販会社の留保所有権の被担保債権の範囲が販売会社の被担保債権と異なることを重視して、信販会社の別除権の行使を認めることは債権者の平等を害すると判断したのでしょう。この判決を前提とすると、破産手続開始決定前に、漫然と信販会社からの自動車の引き揚げ要請に応じてしまうと、偏頗行為といわれかねないので注意が必要です。

次回は、自動車の引き揚げについて否認権が行使された事例を説明します。

<参考条文>
(開始後の登記及び登録の効力)
第四十九条 不動産又は船舶に関し破産手続開始前に生じた登記原因に基づき破産手続開始後にされた登記又は不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第百五条第一号の規定による仮登記は、破産手続の関係においては、その効力を主張することができない。ただし、登記権利者が破産手続開始の事実を知らないでした登記又は仮登記については、この限りでない。
2 前項の規定は、権利の設定、移転若しくは変更に関する登録若しくは仮登録又は企業担保権の設定、移転若しくは変更に関する登記について準用する。

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。

執筆: 弁護士 辻悠祐